経営者を評価するなら「違った歴史」も考えよう!


この記事の所要時間: 250秒 〜 350秒程度(1701文字)


中小企業診断士の佐々木孝です。
 
世の中には、何ごとについても「確定的」な物言いをする人と「確率的」な物言いをする人がいます。自分は「確率的」に考えるタイプで、「確定的」な考え方の人と話していると、稀に議論がまったく噛み合っていないと感じることがあります。「事実とは何か」、「理論とは何か」といった部分の根本的な認識が大きく違うことが原因です。このレベルの認識のすり合わせは困難で、残念ながら議論は平行線をたどることになります。「確率的に考えることは正しい」と信じていても、多勢に無勢で「確定的に考えた方が現実的なのかも知れない」の思うことさえ少なくありません。
 
『まぐれ』(ナシーム・ニコラス・タレブ/ダイヤモンド社)は、そんな迷いを吹き飛ばすに充分な一冊です。偶然性とそれに向き合う人間の心理について書かれた本で、確率とうまく付き合うためのヒントがたくさん盛り込まれています。「確率的」に考えることの重要さと難しさが詳しく説明されており、「確定的」に考えることに不安を感じる人に特にオススメです。
 
そこで、今回から数回にわたって、『まぐれ』が指摘するいくつかの知見を紹介します。

photo credit : Scott Wurzel via photo pin cc

 


判断の正否は、違った歴史を考えないとわからない


まず、紹介したいのが「違った歴史」という考え方です。
誰かが何らかの判断をしてそれを実行すれば、結果が観察されます。しかし、「確率的」に考えるならその結果はたまたま起きただけです。観察されなかった他の結果の可能性も考慮しなければ、元々の判断が正しかったかはわかりません。これが「違った歴史」を考えるということです。
 

観察された結果と違った歴史
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ロシアンルーレットの場合、株式投資の場合


事例を使って説明しましょう。
 
実弾を使った6分の1のロシアンルーレット。無事生き残ったら1発あたり10億円もらえるとして、この賭けに勝った人間は正しい判断をしたといえるでしょうか。確率6分の1で死に至ることを考えると、これを正しい判断だと考える人は少ないでしょう。10億円獲得はたまたま観察された結果に過ぎず、そのことが誰にでもわかるからです。
 
一方、株式投資で危険な賭けをしたトレーダーはどうでしょう。成功して10億円儲けたときには、天才トレーダーと賞賛されかねません。現実の事象の場合、たとえそれが100分の1の賭けに勝ったのだとしても、観察されなかった「違った歴史」は無視されることが多いのです。
 
問題はその後です。このトレーダーが運営する投資信託は「買い」でしょうか。もちろん、そんな筈はありません。偶然賭けに勝っただけのトレーダーが次回以降も永続的に成功する確率はとても低いからです。たまたま観察された結果にだまされてはいけません。「違った歴史」も考慮して判断しなければ、運がいいだけの勝ち馬に乗って損をすることになります。
 


経営者も「違った歴史」を考えて評価しよう!


では、経営における判断の正否はどうでしょう。これもやはり「違った歴史」を考えて評価するべきですが、実際には「結果がすべて」で評価されます。結果について責任を取るのが経営者ですから、その社内においては観察された結果に基づいて評価、処遇されるのは仕方ありません。しかし、経営者として正しい判断をしたか、充分な能力があるか、次に成功する可能性が高いかは「違った歴史」を見なければわからないのです。
 
成功した経営者の中には、正しい判断をして成功した人と、偶然低い確率の賭けに勝った人がいるでしょう。この違いを見分けるのは極めて困難ですが、「違った歴史」の視点を持って考えない限り、経営者としての能力が評価できないのは間違いありません。
 
特に、経営者が新しい事業に乗り出すときなどは、過去の成功について充分「違った歴史」を疑った方がいいでしょう。何せ、以前の成功はたまたまだった可能性もあるのですから。

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