人は目の前の数値にダマされる生き物です


この記事の所要時間: 320秒 〜 420秒程度(1933文字)


中小企業診断士の佐々木孝です。
 
突然ですが、質問です。

 質問1 
 (a)国連にアフリカ諸国が占める割合は、65%よりも高い?低い?
 (b)国連にアフリカ諸国が占める割合は何%?

 
では、この質問ならどうでしょう。

 質問2 
 (a)国連にアフリカ諸国が占める割合は、10%よりも高い?低い?
 (b)国連にアフリカ諸国が占める割合は何%?

 
質問1(b)と質問2(b)はまったく同じ質問です。
当然ながら一人の人間が一度に質問されたら同じ値を答えるでしょう。常識的に考えて、(a)の質問がどのような内容であれ、同じ質問である(b)の答えが変わる理由はありません。
 
しかし、一つのグループに質問1で問いかけ、もう一つのグループに質問2で問いかけると、その結果は異なります。(b)の回答の平均値は、質問1の場合に45%、質問2の場合に25%。「合理的な人間像」を前提にすれば絶対に生じない筈の大差が、実験をすることでいとも簡単に発生してしまうのです。
 
このような現象をアンカリング効果と呼びます。
答えがはっきりわからない質問をされたとき、人々が目の前にある数値をアンカー(錨)として、そこを基準に正解を探してしまう現象のことです。
 

photo credit : Kasaa via photopin cc

 


ルーレットで選んだ数値でも・・・

さて、これだけでも人間の行動が合理的でないことはよくわかりますが、この話にはもうひとつ仕掛けがあります。何と、この10%と65%という値はルーレットを使って選んだ数値なのです。実験参加者の見ている前でルーレットを回し、数値に根拠がないことをわからせた上で実験して、このような結果となりました。
 
他の実験ではアンカリング効果を防ぐために、

 ・現実的でない数値(サンフランシスコの平均気温が292度)を提示する
 ・真剣に考えさせるために正解者に賞品(二人分のディナー)を提供する
 ・事前にアンカリング効果があることを説明する

などの試みが行なわれましたのが、それでもアンカリング効果は確認されました。
 
どうも、人は目の前に数値があると、その意味や価値などとは関係なく、その数値につられて、ダマされてしまうようなのです。
 


人のいい加減さをあらわす好例?

この事例は、『プライスレス』(ウィリアム・パウンドストーン/青土社)を参考に紹介しました。元の実験自体は、行動経済学を生み出し、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとその共同研究者であるエイモス・トベルスキー(若くして他界したためノーベル経済学賞ならず)によるものです。
 
行動経済学の本は何冊も読みましたが、一番驚いたのがこの事例です。
日々の習慣的な行動、例えば購買行動などが合理的でないのは想像の範囲だったのですが、真正面から質問を出された場合には理性が勝ると思っていたからです。自分にとっては衝撃的な結果でした。そこで、人がどれだけ合理的でないか、いい加減にモノを考えるかの好例だと考えて、まずはじめに紹介した次第です。
 


人は目の前の数値にダマされる!

『プライスレス』の冒頭には、マクドナルドで買った熱々のコーヒーを自分でこぼしてやけどした女性の損害賠償裁判の話が出てきます。陪審員が決定した賠償金額は290万ドル(現在のレートで約2億3千万円)。どうしてこんな高額になったかといえば、女性の弁護士が「マクドナルドのコーヒーの売上の1日分か2日分を罰金としたらどうだろう」と提案したからだと言います。マクドナルドの1日のコーヒーの売上高は135万ドル。冷静に考えれば、1日のコーヒーの売上高は損害賠償金額の根拠になりません。しかし、これがアンカーとなって賠償額が決められたようなのです。
 
人は、何らかの数値がわからないとき、何かを参考値(アンカー)として考える癖があるようです。これをうまく活用すれば、上のマクドナルドの裁判のようなことも起き得ます。ビジネスの場でも、この発想は有効でしょう。アンカーとして示す金額で、同じ価格でも「高い」と思われたり、「安い」と思われたりし兼ねないのです。
 
人は目の前の数値にダマされる。
「あの会社はズルい」と思われたらおしまいなので充分な配慮が必要ですが、このことを強く意識しておいて損はないでしょう。

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