ヒューリスティクス、思考の近道に潜む罠


この記事の所要時間: 420秒 〜 520秒程度(2433文字)


中小企業診断士の佐々木孝です。
 
行動経済学によって広まった考え方にヒューリスティクスがあります。
ヒューリスティクスとは

 必ず正しい答えを導けるわけではないが、
 ある程度のレベルで正解に近い解を得ることが出来る方法

のことで、「答えの精度は保証されないが、回答に至るまでの時間が少なくて済む」という特徴があります(参考:ヒューリスティクス|ウィキペディア日本語版)。
 
標準的な経済学が仮定するような「合理的な人間」、つまり常に自身の利益を最大化するように行動する人間は、「ある程度のレベルで正解に近い解」を選ぶことはないでしょう。しかし、現実社会に暮らす生身の人間は往々にしてこの「思考の近道」を選びます。
 
ヒューリスティクスを使うことは人間として当然であり、決して悪いことではありません。ただし、ビジネスの現場においては、不用意なヒューリスティクスの使用が大きな損失をもたらし兼ねないのも事実です。「答えの精度は保証されない」ため、正解とは程遠いヒューリスティクスも多いからです。
 
『まぐれ』の著者であるナシーム・ニコラス・タレブは、人間が考える筋道にはヒューリスティクスと合理性の二つがあり、この両者をうまく使いわけることが必要だと言います。すべてを合理的に考える必要はありませんが、何でもヒューリスティクスで済ましていいわけではないのです。
 
そして、これらを使いわけるためにはヒューリスティクスについて理解することが欠かせません。幸いにも、ヒューリスティクスには典型的なパターンがあります。今回は、そのいくつかを紹介しましょう。
 

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そのデータには代表性がありますか?


よくあるヒューリスティクスの一つが、データの「代表性」に関するものです。
一部のデータを見たとき、その元となった全体のデータについて過剰に代表していると考えてしまう間違いです。
 
例えば、コインを投げて5回連続で「裏」が出たとしましょう。
もう1回コインを投げたとき「そろそろ表が出そう」と思う人は多いと思われます。でも、それがヒューリスティクスです。たった 5 + 1 回の試行では、表と裏の比率に大きな偏りが出てもまったく不思議はありません。それなのに、結果が理論上の平均(表と裏が50%ずつ)に近づくと考えてしまうのです。正に、一部のデータ(6回の試行)が全体のデータ(数万回〜数十万回といった多量の試行)を代表していると過剰に考えていることになります。
 
また、数人を見ただけで、全体の特徴を推測してしまうことも多々あります。
ある商品を2人か3人連続で女性が購入しただけで、「この商品は女性に人気がある」などと勘違いするパターンです。これなどは、そのままビジネスに関わります。たった数日分のデータを見ただけで今後の傾向を占うなど、無理な推測がまかり通っています。
 


自分の知識で歪めていませんか?


人には、自分に身近な事柄の方が起こりやすいと考える癖もあります。
「利用可能性」と呼ばれるこの間違いは、想像しにくいことはなかなか起きず、すぐに頭に浮かぶことは起こりやすいと考えるために生じます。
 
『行動経済学入門』(多田洋介/日本経済新聞出版社)では、こんな事例が紹介されています。

 英単語のうちrで始まる単語と3番目がrの単語ではどちらが多いか?

実際には「3番目がrの単語」の方が多いのですが、多くの人は「rで始まる単語」と答えます。「rで始まる単語」の方が頭に浮かべやすいため、これを多いと考えてしまうのです。
 
「◯◯社は自社よりもヒット商品の比率が高い」などという印象もこの類例の場合があります。自社についてはデータで確かなヒット率がわかっているでしょう。一方で、他社についてはヒット商品はすぐに思い出せますが、ヒットしなかった商品はなかなか思い出せません。そこで、ヒット率が高いと思い込むわけです。
 


その自信には根拠がありますか?


この典型は「自分は交通事故を起こさない」の類で、要は「自信過剰」のことです。自分を正しいと思うがあまり確率を見誤ります。
 
企業内でこれをやると、リスクの計算を間違って大変なことになり兼ねません。しかし、「起こる筈のない失敗が起きてしまった」などはよく聞く話です。
 
新商品発売などに至っては、社内で「自信過剰」を強いられることさえあります。
上司に新商品が成功する確率を聞かれて、冷静に「50%くらいです」と答えたのでは、発売には漕ぎ着けないからです。ウソでも「絶対成功します」と答えるのがお約束です。しかし、それを信じ過ぎてしまうと思わぬ失敗に出くわします。
 


まずは「疑う」ことから


以上、いくつかのヒューリスティクスを紹介しましたが、心当たりのある方も多いでしょう。どうにかしてこれを避けたいところですが、ヒューリスティクスを防ぐ完全な対策はありません。「完全な対策がある」というなら、それこそが自信過剰のヒューリスティクスでしょう。
 
現実的には、常に事実やデータを重視して、自分の知っているヒューリスティクスの例に陥ってないか「疑う」ことが最大の対策です。精神論のような極めて具体性の低い対策ですが、これを心掛けるだけで見える世界がかなり違ってきます。
 
自分や周囲の人間がヒューリスティクスを使っていないか「疑う」ことは、なかなかつらい作業です。しかし、絶大な効果が期待できます。
ぜひ、お試しになることをオススメします。

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