プロスペクト理論、喜びと悲しみの経済学


この記事の所要時間: 320秒 〜 420秒程度(1894文字)


中小企業診断士の佐々木孝です。
 
行動経済学の代表的な成果にプロスペクト理論があります。
プロスペクト理論は

 ①損失をそれと同じ規模の利得よりも重大に受け止める

 ②わずかな確率であっても発生する可能性があるケースを強く意識する

といった人間の癖が、意思決定に与える影響を説明します。
(参考:『行動経済学入門』多田洋介/日本経済新聞出版社)
 
これを噛み砕いて表現すれば、

 ①損失による悲しみは利得による喜びより2倍も大きいので、
  人は損失を回避するような行動を取りやすい

 ②人は実際の確率より主観的な確率を重視して、
  低い確率でしか起きないことに対して過剰に心配する

となります。合理性にあがなう人間心理をうまく捉えた「喜びと悲しみの経済学」とも言えそうです。
 
さて、どちらも言われてみれば「あるある」という現象でしょうが、それで終わらせてはいけません。これらの人間の癖は、うまくビジネスに活用すれば、かなりの効果が期待できるのです。そこで、今回はこのプロスペクト理論についてお話することにします。
 

photo credit : chuddlesworth via photopin cc

 


実験で確認するなら・・・


プロスペクト理論は、実験によってその現象が確認されています。
実際に行なわれた実験は条件付け等が詳細で説明がわかりにくくなるので、ここではややデフォルメした仮想実験(?)で「こんな風になる筈」という紹介をします。

 損失を回避 
以下のAとBでは、どちらの方が賭けに参加する人が多いでしょうか。

A)
  ・最初に1万円渡す。
  ・勝てば+5千円、負ければ―5千円の賭けをするか?

B)
 ・最初は何も渡さない。
 ・勝てば+1万5千円、負ければ+5千円の賭けをするか?

どちらも勝てば+1万5千円、負ければ5千円ですから、手元に残る金額は同じです。しかし、賭けに参加する割合はBの方が多くなります。一度手に入れたお金を失うことに抵抗があるため、Aの場合はこの賭けに乗らない人が多くなるのです。
 
 過剰に心配 
次の2つのギャンブルのどちらをやりたいでしょうか。

 A)確実に1万円もらえる
 B)8割の確率で1万5千円、2割の確率で0円もらえる

この場合、Bの期待値が1万2千円でAの金額を上回ります。つまり、合理的に考えればBを選択する筈です。しかし、実際に実験すればAを選ぶ方が多くなるでしょう。「2割の確率で0円」を過剰に心配するからです。
 


ポイントが付かない買物は損失?


さて、プロスペクト理論をビジネスにうまく利用していると思うのは、家電量販店各社などが行なっているポイントサービスです。購入金額に応じてポイントを付与するあのシステムは、今ではどこの企業もやっている一般的なサービスになっています。
 
では、値引きとどこが違うのか。
それは、購入のその場で支払い減額という直接的な「利得」を与える代わりに、ポイントという「損失」する可能性がある対価を提供するところです。これにより、一度もらったポイントを「使わなかったら損」という心理が強く働き、店への再訪問、再購入を促すようになります。更に、利用者がこのシステムに慣れてくると「ポイントが付かない買物は損失」と考えるようになります。そこで、ポイントカードを持っているお店ばかり利用するという仕掛けです。「損をしたくない」という心理をうまく突いたシステムと言えるでしょう。
 
キャンペーンの告知メールなどでも、プロスペクト理論を使った一工夫が可能です。
メールに、「参加すれば◯◯をもらえる」と書くのと、「参加しなければ◯◯をもらい損なう」と書くので、効果が違うと推測できるのです。
 


プロスペクト理論を楽しもう!


企業でプロスペクト理論を応用した場合、その効果測定はなかなか難しいでしょう。その意味で、データに基づいてプロスペクト理論をオススメするとはなり得ません。
 
でも、誰もが「あるある」と思うような意思決定の歪みですから、そこをうまく突けば効果は期待はできます。あまり杓子定規に考えず、少し楽しむようなつもりでいろいろなアイデアを出してみてはいかがでしょうか。

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