「まとも」と「儲かる」はどちらが先か?


この記事の所要時間: 330秒 〜 430秒程度(2012文字)

まともにやって面白い、それを芸というのだ、と前回結んだのだけれど、考え違いはしないでくれ。

まともにやれば芸、ということではないのだよ。面白いが抜けていては何にもならない。まともにやったがつまらない、これァ最悪だァ。

ならば、面白いけれどまともにやってないのは芸と言えないのか。ということになれば、大衆芸能ひとさまが喜ぶというのが大前提のひとつだから、ソレハ立派ニ芸ナノダ。と言いたいのだが、受ければ何でも芸といえるのかというと、そうはいえないところが難しいところだし、大事なところだろう。

 
柳家小三治『落語家論』(ちくま文庫)に、こんな一節があった。「紅顔の噺家諸君!」という章題がついており、若い噺家に向けたアドバイスという位置付けだ。
 
コンサルタントらしく(?)整理すると、こんな図になる。

4つの窓 ― 芸

噺家にとって特に重要な要素は「面白い」と「まとも」の2軸であり、どちらが欠けても芸とは言えないのだろう。小三治師の文章にはないが、右上が「目標」であり、左下が「問題外」なのは自明だと思われる。
 
芸を極めたいなら、「面白い」と「まとも」の両方を目指すのは当然だが、なかなかそうはなれない。このとき、取りあえず「まともで面白くない」を目指すか、「まともじゃないけど面白い」を目指すかはかなり難しい問題だ。小三治師の結論は、「まともじゃないけど面白い」を否定しているように読める。面白さにはいろいろなタイプがあり、「まともじゃないけど面白い」タイプの面白さは、程度が低いような書き方をしている。落語界の第一人者の言ったこととは言え、これが正解とは限らないが(それもこれを書いたのは30年前だし)、頷ける話ではある。
 
この話、「面白い」を「儲かる」に置き換えると、そのままビジネスに応用できそうだ。今回は、これについて考えてみたい。
 

photo credit : thewoodenshoes via photopin cc

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そのビジネスは価値を認められていますか?

ビジネスの場合、実は「まとも」の基準が難しい。
 
まず、法令遵守や社会的責任など、企業として最低限守るべきことを行なっていなければならないのは間違いない。しかし、最低限を満たしただけで「まとも」というのはやや基準が甘いだろう。世に「まともじゃない」企業は星の数ほどある。わかり易い例を挙げるなら、独占状態や寡占状態の市場で、それを良いことに強引な商売をしている企業だ。
 
こればかりは人によって基準が違って当然だが、顧客満足、従業員満足、株主満足、そしてステークホルダー全般の満足度が高い企業こそ「まとも」と言えるのではないだろうか。顧客が渋々自社製品を買っている、従業員がサービス残業している、株主が経営陣の方針に納得していない、下請け企業が泣いている、では到底「まとも」とはならない。そのビジネスに関わる多くの人が、そのビジネスの価値を認めて、そこから満足を得ていることが「まとも」の条件と言っていいように思う。
 


そのビジネスは儲かりますか?

もちろん、ビジネスは儲からなくてはいけない。
 
「まともで儲からない」は落語の例の「まともで面白くない」に対応し、「最悪だァ」となる。とは言え、「まともじゃない」ビジネスを行なって、安直に「儲かる」を目指す人が後を絶たないのも、また事実だ。
 
自由競争の下では、そういう「まともじゃない」ビジネスは淘汰されていいようなものだが、寡占・独占状態だったり、淘汰までに時間がかかったりして、なかなか消えない。淘汰されるまでに充分な儲けを出せれば、ビジネスとしては成功と考えることもできる。
 
しかし、一度「儲かる」ばかりを優先して「まともじゃない」ビジネスを行なえば、それを修復して「まとも」にするのは困難だ。信用は取り返せない。その一方、「まともで儲からない」には修復の見込みがある。「顧客を充分満足させている」ことが前提だが、それさえできていれば充分な数の顧客が一定以上の対価を払うだろう。後は、どう効率化するかだけの問題だ。これも一筋縄で行くようなことではないものの、経営の手腕次第でどうにかなる。
 

4つの窓 ― ビジネス

 


「まともじゃない」をやったらお終いという覚悟で

さて、こう考えていくと、「まとも」を目指せというより、「まともじゃない」をやってはいけないという話になる。至極当たり前の結論だが、これをやったらお終いだ。
 
「まとも」なビジネスを続ければいつか儲けにつながる。
ビジネスは、このくらいの覚悟で挑まなければ、成功は難しいだろう。

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