誰がMAKERSになるのか?


この記事の所要時間: 340秒 〜 440秒程度(2086文字)


『MAKERS』(クリス・アンダーソン/NHK出版)が話題になっているらしい。
 
「話題になっている」などという物言いは大体がいい加減で無責任なものだが、どこの書店でも平積みになっており、またAmazon.co.jpのベストセラーランキング(2012.12.12現在)でも総合29位、ビジネス・経済4位なのだから、売れているのは間違いない。
 
著者のクリス・アンダーソンはWIRED誌の元編集長で、これまでも『ロングテール』『フリー』を上梓している。両作品とも現代における社会の大きな変化を抽出・予測して好評を博しており、『MAKERS』もこの流れにある。同書が話題になるのは必然と言っていいだろう。
 
ものづくりがデジタル化すれば、誰もが製造業になれるようになり、世の中が良くなる。
極言すれば、『MAKERS』の主張はこの一文でまとめることができる。
(『MAKERS』についてもっと詳しく知りたい人は『MAKERS』を1章140文字でまとめてみたを参照のこと)
 
クリス・アンダーソンによれば、
 ●3Dプリンターやレーザーカッターのデスクトップ化
 ●デジタルデザイン製品の少量生産請負業者の出現
 ●SNSを使ったオープン・イノベーション環境の充実
 ●一般消費者が参加するクラウドファンディングの浸透

などにより、製造業が民主化されてメイカーズムーブメントが起きる。これにより、モノのロングテールと人材のロングテールが進み、誰もが本当に欲しい製品を手に入れられるようになり、誰もが活躍の場を得られる可能性が増える。メイカーズムーブメントは人を幸せにするというわけだ。
 
さてこの作品、著者の着眼点の鋭さには相変わらず感心するが、なかなか同感できない。
なぜかと言えば、「できる」と「する/なる」の違いはあまりに大きいからだ。
 

photo credit : jabella via photopin cc

 


「できる」だけでは画餅に帰す


誰もがMAKERSになることが「できる」環境が整ったとして、実際に誰がMAKERSに「なる」のだろうか。若きビジネスエリートたちが血気盛んにMAKERSを目指すという想定は素晴らしいが、あまり現実的でない。
 
もちろん、中にはMAKERSを目指して成功する人もあらわれるだろう。しかし、それ以上の失敗者が生まれるのも必定だ。行動経済学のプロスペクト理論を持ち出すまでもなく、人が損失を恐れるのは当然。MAKERSにトライする人は限られるだろう。アメリカのように、事業の失敗に比較的寛容な世の中ならいざ知らず、日本での普及は限定的になるように思う。MAKERSに挑戦する人が少なければ、成功者もあまり生まれない。
 
新しいビジネスを「できる」環境が整うことで、すぐにでもビジネスがスタートするように言う人がいる。しかし、実際にはそれを「する/なる」人があらわれなくては、ビジネスは生まれない。一定量のリスクを取ってまで新しいビジネスに挑ませるためには、充分な動機付けが必要だ。これが足りないと、まさに画餅に帰すことになる。
 
冷静な判断をするとなかなか挑戦できないようなアプローチを取るのは、多くの場合、ビジネスをあまり良く考えていないお調子者ということになる。そして、お調子者の成功率はかなり低い。MAKERSもこのパターンにはまる危険が高いように思う。
 


無責任なアジテーションに要注意


ビジネス書には、こうすれば成功「できる」というアプローチが多い。
 
「できる」は正確には「できるかも知れない」であり、そのアプローチの多くはたくさんの失敗者とわずかな成功者を生み出す。しかし、大体は成功者ばかりが目立つので、これらのアプローチの一部は素晴らしいものと誤解される。このため、この手の無責任なアジテーションは後を絶たない。もちろん、失敗を恐れて新しいことを何もしなければジリ貧になるだけだが、とは言え、無責任な言説に振り回されても不幸を招くだけだ。
 
新しいアプローチに対して、ハナから否定的なことを言ったり書いたりすることはあまり好まれない。やってみなければわからないのに、最初から諦めるのはいかがなものかという理屈だ。しかし、新しいアプローチには、企業が儲けるため、著者が有名になるため、学者が実績をつくるためのものも多く、事業者のためにならないものがある。あえて具体例は出さないが、この手のアプローチに引っかかってしまうと、事業者はしなくてもいい苦労をすることになる。
 
自分は、無責任なアジテーションに乗じて薔薇色の未来を語るのではなく、地に足が付いた支援をしたい。このために、あくまで悲観的な視点でさまざまなアプローチを評価し、見極めたいと考えている。

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