4Kテレビの絶望 なぜ同じ失敗を繰り返す?


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先日、米ラスベガスで世界最大の家電見本市 CES(セス/Consumer Electronics Show)が開催された。世界各国の有力企業が数多くの新製品やプロトタイプを発表する注目のイベントだ。イベント自体が大き過ぎてその総体をつかむことは難しいが、漏れ伝わってくる新製品のニュースだけでもワクワクするものがある。
 
CESでは、日本の大手電機メーカーもたくさんの新製品を発表した。
その中で首を傾げたくなるのが4Kテレビに関するニュースだ。4Kの「K」はキロ=1000を意味しており、横の画素数が約4000(正確には3,840)を超えるテレビが4Kテレビと呼ばれる。現在のフルハイビジョンテレビと較べても数倍の画素数となり、とにかく画質のきれいさが自慢のテレビなのだが、果たして誰がこれを欲しがるのだろうか。
 
テレビを画面の美しさで評価するなら、4Kテレビは良い商品だ。
しかし、マーケティングの世界の常識では、良いものが売れるとは限らない。売れるのは、いくら品質や性能が悪くても誰かが欲しいと思う商品なのだ。そして当然ながら、自社の技術力を誇示できる新製品を発売しても、売れなくては意味が無い。
 
技術力を重視する企業は、この手の失敗を繰り返している。
無駄に品質・性能の良い商品を発売して、「結局、売れませんでした」、「消費者が付いてこれなかった」、「発売が早過ぎた」というパターンだ。
 
企業に余力があるのならば、これを続けていつの日かの大当たりを夢見るのもいいかも知れない。高い技術力というブランドイメージが役立つという発想もわからないではない。しかし、今日の日本の家電メーカー、そして製造業全般に至っても、もうそんな余裕はないように思われる。
 
そこで、これ以上同じ過ちを犯さないために、なぜこのような失敗を繰り返すのか、その理由を考えてみた。
 

photo credit : Profound Whatever via photopin cc

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4Kテレビの絶望


まず、念のため4Kテレビが売れない理由を説明する。
 
4Kテレビの特長は画質のきれいさだ。
しかし、この特長はあまりに弱い。なぜなら、画質が良いことで得られる効果があまりに小さいのだ。
 
もちろん、同じ価格で画質が良いテレビと悪いテレビがあったら、誰もが良い方を選ぶだろう。でも、だからと言って、消費者が少しでも画質の良いテレビを求めているとは限らない。今のテレビは基本的に画質がいいので、余程のこだわりがある人を除けばこれ以上の画質向上は過剰品質に過ぎないのだ。画質が良くなることによる満足の増加幅は限られている。その特長を強く求める理由はない。
 
確かに、画質が高くなることで満足が増すコンテンツもある。映画や一部の自然ドキュメンタリーなどがそうだろう。しかし、それらの数は限られる。この満足を得るために多くの人がテレビを買い換えるとは考え難いのではないだろうか。
 
後は、見栄の消費だが、その対象をテレビや自家用車に求めるのは一つ前の時代だろう。長期の不況や将来不安によって見栄の消費は減っているように見えるし、もしあったとしてもその対象はノートパソコンやスマートフォンに転じているように思われる。
 
こう考えていくと、4Kテレビの先行きは絶望的だ。
日本以外については経済環境が多少違うと考えられるが、画質が良くなることで満足が増すコンテンツが少ないことに変わりはない。「過剰品質による失敗」の典型事例になることが約束されているようにさえ思う。
 


同じ失敗を繰り返す理由


さて、4Kテレビについてはもう手遅れなので仕方ないとして、なぜ同じような失敗を何度も繰り返すかは考察に値する。技術重視の企業が消費者が望んでいない過剰品質の商品を提供して、目を覆いたくなるような失敗をする例は枚挙に暇がないのだ。
 
同じ失敗を繰り返す理由を自分なりにまとめると、以下の3つに集約される。
 
 ハード面の品質向上は簡単 
今の世の中、使い易さ、おもしろさ、快適さなどソフト面の特長が求められている。しかし、これらを実現するためには消費者を理解して何らかの方向性を決める必要があり、なかなか一筋縄には行かない。
 
これと較べれば、テレビの画質を上げるなどのハード面の品質改善は簡単だ。もちろん技術的に難しい部分は多いが、目指す方向が決まっているので資本や人材の投入も比較的容易となる。
 
確実な成果を期待された優秀な技術者が、ハード面に注力するのは当然だと考えられる。
 
 社内を説得し易い 
テレビの画素数が増えたことは数値で示すことができる。
画素数が多いほど「良い」ことは間違いないので、これは社内の説得において強力だ。誰にでも説明できるし、商売として失敗しても言い訳のしようがある。
 
このため、新商品発売に社内調整が欠かせない今の時代、数値で測りやすい指標が高いものが発売されることになりがちだ。この際、数値の増加に消費者が意味を見出だせるかはないがしろにされる。
 
 「もったいない」の精神 
企業がある製品で事業をしている限り、その製品についての研究は欠かせない。消費者の欲求は日々高くなるのが当然だし、ライバルに出し抜かれるわけにはいかないからだ。ただし、研究の結果として獲得した技術をすべて商品化すればいいというものではない。その技術を、「消費者が求めているか」のフィルターで判断することが必要になる。
 
それでも、多額の費用を掛けて研究してその成果が上がったら、それを商品化して販売したいと思うのは人情だろう。研究費を「もったいない」と思うのも普通の考えだ。しかし、素晴らしい研究成果を消費者が求めているとは限らない。既に投資してしまった資金を「もったいない」と考えて、更に多くの損益を出すパターンは数多い。
 


顧客志向のススメ


この失敗を繰り返さないためには、顧客志向が重要になる。つまり、製品よりも顧客を優先して考えるのだ。
 
マーケティングを志す多くの人が、「良いものが売れるとは限らず、誰かが欲しいと思う商品が売れる」という説得を何度も何度も繰り返してきた。これを言うと、「そんなことはわかってる」、「今さら何を言っている」という声が聞こえてきそうだが、いくら口が酸っぱくなるほど言ってもこの理屈がわからない人が多い。頭ではわかっていても、腹落ちしていないのだろう。何度も同じ失敗を繰り返すのはその所為だ。
 
このため、4Kテレビのような商品が発売されるたびに同じような議論をすることになる。そんな時代があったねといつか笑える日が来ることを夢見つつ、また書いてみた。

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