大新聞が報じる「奇妙で悲しい視聴率の物語」


この記事の所要時間: 430秒 〜 530秒程度(2520文字)


インターネット版の朝日新聞に「ドラマは録画」くっきり 再生率が視聴率上回る例もという記事が掲載された。
 
簡単にまとめてしまえば、
 ●ドラマを録画再生する人は多い。
 ●現在では視聴率の公表数値が視聴実態と離れつつある。
 ●テレビ視聴は録画再生を含めて考えた方が視聴実態を反映する。
という主張だ。「最近テレビ視聴率が下がっていると言われるが、録画で見ている人も多いのでメディアとしてのパワーは落ちていない」というメッセージも暗にあるように思われる。
 
さて、この結論の一部については賛同するものの、この記事の構成はあまりに醜い。
データに基づいているふりをしているが、そのデータがそもそも出鱈目なのだ。データを元にして議論を組み立てることは素晴らしいが、元のデータがいい加減なものでは一切価値はない。無根拠の主張と何ら変わりはないと言えるだろう。騙される人が多い分、むしろ害悪だ。
 
今回は、この記事の問題点について説明しよう。
 

photo credit : HAMACHI! via photopin cc

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正月調査はあり得ない!

消費者や利用者の実態を調査するとき、いくつの鉄則かある。そのひとつが「正月、ゴールデンウイーク、お盆などの非日常期は避ける」だ。理由は簡単で、①いつもと行動パターンが大きく違い、②在宅率にも歪みがあるからだ。
 
考えてみて欲しい。
正月にアルコール摂取・消費の実態調査をしたらどうなるだろうか。きっと普段よりお酒の摂取量は多くなる。昼間から飲む人が増えて、いつもより高いお酒を選ぶ人がいるかも知れない。一人で飲む人は少なくなり、家族や親戚と飲む人が増えるが、会社の同僚と飲む人は減るだろう。帰省や旅行で家を離れる人は、いくら飲んだくれていようと自宅でのアルコール消費がゼロになる。
 
もちろんこれらは常識から考えた推測で、実態は調査をしてみなければわからない。それでも、正月は普段とアルコール摂取の実態が大きく違うであろうことは容易に推測できる。日常のことを知りたいなら、正月やお盆に調査をしてはいけないのだ。
 
今回、朝日新聞が分析したのは「今年1月1日~7日の1週間分のデータ」。問題外だ。この期間のデータに見られる特徴が、他の日常的な期間にもあてはまると主張するのは、かなりの無理がある。
 


そもそも正月はドラマが少ない

正月のテレビ視聴のデータにはどういう傾向が生じるだろうか。
 
まずひとつに、放送されるテレビ番組自体が大きく違う。
少なくとも三が日はレギュラー番組がほとんどなく、ニュースも少ない。バラエティ番組ばかりで、ドラマもの放送も限られる。MSNテレビ番組表で確認したところ、関東の主要6局でデータ期間のゴールデンタイム(19時〜23時)に放送されたドラマは、以下の11本しかない。
 

1月1日(火)
 ●時代劇・御鑓拝借[NHK総合]
 ●開局55周年記念 相棒~元日スペシャル[テレビ朝日]

1月2日
 ●GTO正月スペシャル!冬休みも熱血授業だ[フジテレビ]
 ●新春ワイド時代劇 “白虎隊~敗れざる者たち”[テレビ東京]

1月3日
 ●お正月特別企画ラッキーセブンスペシャル[フジテレビ]

1月4日
 ●新春大型時代劇SP「鬼平犯科帳スペシャル」[フジテレビ]

1月5日
 ●新春ドラマ特別企画 ダブルフェイス~偽装警察編[TBSテレビ]
 ●土曜ワイド劇場「西村京太郎トラベルミステリー」[テレビ朝日]

1月6日
 ●八重の桜[NHK総合]
 ●ATARUお正月SP[TBSテレビ]

1月7日
 ●月曜ゴールデン「警視庁心理捜査官・明日香3」[TBSテレビ]

 
レギュラードラマは大河ドラマ「八重の桜」の初回1本だけ。他はスペシャルドラマばかりで、テレビ局が威信と予算を掛けた特別感の強い豪華ドラマが多い。その上、この時期はバラエティ番組を含めた豪華番組が裏表で放送されることも多くなる。
 
次に、テレビを見る環境が違うというのもある。
例えば、普段は平日外出している家族が在宅しているとか、年始のお客が来て自由にテレビが見られないとかという状況だ。テレビ視聴が増えるか減るかは人それぞれだろうが、視聴パターンはいつもと大きく違っている。
 
更に言えば、ここでも帰省や旅行の問題がある。
長期不在をするなら、テレビ好きの人はいろいろな番組を録画して当然だからだ。
 
いずれにせよ、日常と較べて録画率が上昇しておかしくない時期だと考えられる。
そして、一つ一つの番組の特徴が際立っているから、再生率も高くなり易い。これらはあくまで推測に過ぎないが、この時期に調査することがいかに異常かはわかっていただけるだろう。
 


データ分析は誇りを持って!

さて、ここまで書いた通り、朝日新聞の当該記事は「今年1月1日~7日の1週間分のデータ」を元にしており、日常のテレビ視聴行動をどうこういうには無理がある。
 
その原因が、記者の無知にあるのか、何らかの作為があるのかはわからないが、こんな記事が大新聞に載るような状況は悲しく奇妙なことだ。結論自体に一定の説得力があっても、それを導き出す過程が酷過ぎる。悪意を持って解釈すれば「まず結論ありきのでっち上げ」だ。仮にそういう意図はないにしても、この指摘を甘んじて受けなくてはいけないくらいいい加減な記事なのだ。
 
データ分析は、分析者の力量次第だ。
そして残念ながら、その中には自分に都合のいい結果をでっち上げる力も含まれている。しかしだからこそ、データ分析を行なうものは誇りを持って、自分自身に嘘のないしっかりした分析を行う必要がある。このトンデモ記事を見てつくづく再認識した。

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