大雪とJRと後知恵バイアス


この記事の所要時間: 430秒 〜 530秒程度(2479文字)


先日、東京で雪が降った。
とは言え、「大雪の恐れ」という天気予報ははずれ、都心での積雪はほとんど見られなかったようだ。
 
このため、雪による直接的な影響は少なかった。一方で、大雪を警戒したJRが電車の本数を減らす間引き運転をしたため、この間接的な影響がかなりの広範囲に及んだ。報道によれば、不便な思いをした乗客からはJRの対応について不満の声も出たらしい(参考:首都圏で雪 ラッシュ時に間引き運転、大混雑の駅も|朝日新聞)。更には、気象庁に対して猪瀬直樹東京都知事からの横槍も入った(参考:猪瀬知事:気象庁を批判 6日の「大雪」予報が外れ)。
 
しかし、今回のJRの決定は正しかったと言える。
JRに対する批判の多くは、ただの後知恵バイアスに過ぎないからだ。意思決定が正しかったかどうかの判断は、決定時点の情報量で行なわれなくてはならない。結果が出てから、「その結果になることはわかっていた」という立場で批判する行為は、ナンセンスで恥知らずだ。
 
気象庁が大雪を予想したとき、そしてJRが間引き運転を決定したときにわかっていたのは、せいぜい大雪になる可能性が◯%、大雪にならない可能性が◯%という情報だろう。実際に起きる結果は一つしかないとしても、その一つが起きる前にはすべてが確率でしかあらわせないのだ。今回たまたま大雪にならなかったからと言って、気象庁の予報が間違っていたとは言い切れないし、JRの判断が不適当だったとも評価できない。大雪にならなかったので間引き運転の意味がなかったが、もし大雪になっていたら間引き運転が功を奏していた可能性も高い。今回起きた結果がすべてではないのだ。
 
事が起きてから、他人の判断をアレコレ言うのは簡単で魅力的だ。
しかし、これは後知恵バイアスであり、あまり褒められたものではない。
 

photo credit : showbizsuperstar via photopin cc

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後からなら何とでも言える


人は、何かを決めるとき、これから起きることを想定して判断する。
当然、この先どうなるかが明確にわかっていることは少なく、Aの可能性が75%、Bの可能性が24%、Cの可能性が1%のように考えるしかない。そして、この確率でさえ正しくわかっていることは少ない。それでも、いろいろな可能性をなるべく考えた上で、「利益の最大化を目指す」、「最悪の事態を回避する」などの判断をすることになる。事が起きる前の情報量はこんなものだ。
 
このとき、Cの確率が低くてもその事象が起きた時に取り返しのつかない事態に追い込まれるのなら、Cへの対応に最大限注力するのは適切な意思決定だ。リスク管理において、最悪の事態の回避は優先度が高い。
 
しかし、多くの場合、実際にCは起こらない。
このとき批判が起きる。起こりもしないことを心配して、余計な手間やコストを掛けたという訳である。
 
実際に起きた事象がAであっても、BやCが起きる可能性はあった。どんな場合でも違った歴史はあり得たのだ(違った歴史について詳しく知りたい人は経営者を評価するなら「違った歴史」も考えよう!を参照のこと)。リスクを回避したいなら、さまざまな可能性に備えるのは当たり前と言える。しかし、予報がはずれると大雪対策に文句が出る。実際に起きた結果が一つであるため、違った歴史の存在を忘れてしまうのだ。愚かなことである。
 
一方、Cへの対策を怠っている状態でCが起きたとき、「なぜC対策をしていないのか」という批判が起きる。もちろん、これも後知恵バイアスの一種だ。後知恵で批判している限り間違うことは少ない。このため、いかにも素晴らしいことを言っているように見えるが、そこに意味はない。後からなら何とでも言えるのだ。
 


東日本大震災の夜に・・・


東日本大震災の日の夜、JR東日本はほぼ全線でストップした。その一方、私鉄は運転したところも多かった。
 
これをもってJRの怠慢を指摘する向きもあるが、本当のところはどうだろう。JRの運行距離の長さを考えると、あの夜の時点で全線の安全を担保できなかった可能性は高い。いつもより危険な状態で運行する可能性が多少でもあったのだ。もちろん、その確率は極めて低く、実際に運行しても事故は起きなかっただろう。
 
しかし、事故が起きるという違った歴史もあった。真に安全を目指すなら、それを考慮するのは当然だ。私鉄各線が事故を起こさなかったことを根拠にして、後知恵バイアスであの夜のJRの判断を一方的に批判するのはとんだ勘違いと言える。
 
ただし、JRのリスクに備える姿勢は正しいとして、その予測精度の向上と影響範囲の縮小は考えて欲しいところだ。せっかく素晴らしい取り組みだけに、これを潰さないためにも実行レベルでの研鑽を期待したい。
 


違った歴史を考えることを習慣付けよう!


ビジネス一般においても、後知恵バイアスを振り回すことは禁物だ。
 
他人の意思決定を、結果が出てから批判することはたやすい。その時点においては正論だから、相手の反論は空振りし、自己満足も得られるだろう。しかし、そんなことをしても何も生まない。むしろ意思決定者が萎縮して、リスクへの備えを止めたら最悪の事態が起きたときに困ったことになる。
 
結果は大事だが、起こらなかった違った歴史も考えないといけない。10%のリスクがある賭けを続けて、勝ち続けている意思決定者を手放しで評価してはいけないのだ。
 
もちろん、これは極めて難しい。
しかし、違った歴史を考えることを習慣付ければ少しはマシになる。根本的な解決方法ではないが、この意識を常に持つことで、少なからずビジネスは好転するだろう。

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