3Dプリンター時代の印鑑マーケティング


この記事の所要時間: 410秒 〜 510秒程度(2325文字)


一工夫ある朱肉が売れているらしい。
出典は日経トレンディネットの朱肉のフタが印マットに! カラフルな朱肉がブレーク中という記事。確かに印マットがなくて困ることは多く、利用者の不便を解消する商品だ。今まで無かったのか不思議に感じるほどで、目の付けどころが素晴らしい。
 
一方で、印鑑市場の行き詰まりも感じる。
署名捺印をするときには、ペンと印鑑と朱肉と印マットが必要になる。このうち、印鑑と朱肉を合わせたのが俗に言うシャチハタ印、これにペンを加えたのがネームペン(シャチハタ印付ボールペン)、朱肉と印マットを合わせたのが今回のシクオス(印マット付朱肉)。涙ぐましいほどの創意工夫をしているものの、組み合わせを変えているだけで一歩も前に進んでいないとも考えられる。
 
そして、この業界には3Dプリンターという大きな脅威が待ち構えている。果たして、新しい時代の印鑑マーケティングはどうなるのだろうか。
 

photo credit : Jason Michael via photopin cc

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誰もが自宅で印鑑をつくれる時代がやって来る!


3Dプリンターは、その名の通り立体的なモノをアウトプットする装置だ。コンピュータ上でデザインしたものをプラスチック樹脂等で再現する。まだ一般化には程遠いが、商品価格は急激に下がってきており、近い将来、広く普及する可能性があると言われている。
 
一部の人間が使っているだけでも、印鑑に与える影響は大きい。
印影をスキャニングして、それを3Dで加工・出力すれば、すぐに偽物の印鑑をつくれることになるからだ。これまでも印影のコピーは可能だったが、それを印刷しても朱肉を使って印鑑を押したような状態にはならない。ところが3Dプリンターさえあれば、その印影を印鑑として出力できる。朱肉を使った印影を再現できるし、場合によっては人前で押すことさえ可能になるのだ。
 
そうなってしまえば、印鑑が人や企業の認証に役立たなくなる。もちろん今でも印鑑による認証は形骸化しているが、偽造が容易になれば積極的に排除することになり兼ねない。3Dプリンターにより、印鑑は排除すべき危険なものになる可能性が高いのだ。
 
認証以外の用途で印鑑が残るとしても、その購入に変化が訪れるだろう。
3Dプリンターの浸透でビジネスコンビニ等での印鑑作成が、今より更に簡単・安価になる。更に進めば、誰もが自宅で印鑑をつくれる時代がやって来る。そうなってしまえば、印鑑市場は滅亡の危機だ。ビジネスコンビニ等に印鑑作成の専用機を販売するとか、一般ユーザー向けに印鑑作成アプリを提供するとか、これらの変化を利用する方法も無くはないが、この業界がかなり厳しくなるのは間違いない。
 


印鑑が提供するベネフィットは何か


ここで大事なのは、ドリルと穴のマーケティング発想法で考えることになる。
「人は四分の一インチの穴を買うのであって、四分の一インチのドリルを買うのではない」(参考:セオドア・レビット『レビットのマーケティング思考法』)。人が求めているのは印鑑が提供する何らかのベネフィットであり、印鑑そのものではないと考えることが必要なのだ。
 
さて、印鑑はどんなベネフィットを満たしているだろうか。
 
まず、印鑑にはある人やある企業がその書類等を「承認したしるし」になるというベネフィットがある。契約書への捺印から宅配便の受取印まで、この用途での印鑑利用は数多い。ただし、このベネフィットは手書きのサインで容易に代替できる。サインにはペン1本あれば充分。特殊な道具はいらないのでこのベネフィット代替を商売にするのはかなり難しい。指紋や画像認識を使った承認装置とか、筆跡鑑定装置とかは同種のベネフィットを満たしそうだが、印鑑作成とは技術があまりにかけ離れている。
 
次に、「文字を書くより簡単」というベネフィットがある。印鑑からやや話は拡大するが、住所印等のスタンプがそれだ。パソコンからの印刷と相性の悪いものに、同じ内容を大量に書き加えなくてはいけないとき、スタンプは欠かせない。この用途は、すでにシール印刷等で代用されている。「承認のしるし」よりは印鑑作成に近い技術の応用が可能だろうが、具体的な代替案はなかなか思い浮かばない。
 
もうひとつ考えられるのが「アイコン・目印」としてのベネフィットだ。印鑑は個人の目印でもある。今や企業も個人も自分をアイコン化する機会は多い。ツイッターやフェイスブックのアイコンがその最たる例だ。個人をアイデンティファイできるアイコンのデザインに、印鑑デザインの技術を応用できるなら脈がありそうに思うが、いかがだろうか。
 


発想の転換を!


上に書いたベネフィットは業界に疎い素人の浅知恵に過ぎない。
しかし、アプローチとしては間違っていない自信がある。印鑑なり、スタンプなり、実際に存在する商品にこだわっていては、将来は厳しくなるばかりだ。必要なのは発想の転換ということになる。
 
3Dプリンターに怯えるのではなく、これを考え直す良い機会と捉えて、印鑑が果たしてきた役割を洗い出してみたらどうだろうか。幸い、3Dプリンターが一般に浸透するまでには未だ少し時間がある。ここ選考すればどうにかなると思うのだが、・・・・。
 
うまくすればイノベーションが生まれるかもしれない。

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  1. 2014年 5月12日

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