ノーテレビライフは何%?


この記事の所要時間: 530秒 〜 630秒程度(2966文字)


「若者の◯◯離れ」という常套句がある。
いま調べただけでも、クルマ離れ、お茶離れ、Facebook離れ、活字離れ、政治離れ、ビール離れ、建設業界離れ、・・・とたくさん出てくる。一定のデータに基づく表現もあれば、かなり感覚的な言いようもあり、外から眺めているぶんにはおもしろい。冷静に考えれば、時代や世代により嗜好が違うのは当然。そのときどきで良い業界もあれば悪い業界もあるだけなのだが、それを「若者の◯◯離れ」と言ってわかったフリをしたい人が多いらしい。
 
最近良く聞く「若者の◯◯離れ」の一つに「テレビ離れ」がある。
影響力の大きな業界であり、「テレビ離れ」と言うと喜ぶ人も多いのでよく登場することになるのだろう。先日も、こんな記事があった。
 

なぜ、若者の間でノー“テレビ”ライフが広がるのか?テレビを捨てた人たちの本音|ビジネスジャーナル
本当はなくても済む。むしろ、ないほうがよい。人によっては「テレビ」とはそんな存在だ。ノーテレビライフを始めた20〜30代の人たちが異口同音に語るのは、生活の質の向上だった。
 
テレビをまったく視ないという人は微増している。NHK放送文化研究所が実施した「国民生活時間調査」では、平日のテレビ視聴時間が2010年までの5年ごとの調査で、
 ・1995年:8%
 ・2000年:9%
 ・05年:10%
 ・10年:11%
と推移している。
 
「ニコニコ動画」を運営するニワンゴが10年に実施した調査では、平日にテレビを視る時間を問う質問で最も多かった回答が「まったく視ていない」で20.9%だった。年代別では20代の24.3%、30代の22.7%の順に多く、若い世代にノーテレビライフが増えている傾向も垣間みられる。〔略〕

 
この記事では、「テレビ離れ」を裏打ちするために、NHK放送文化研究所とニコニコ動画の調査結果を使っている。もちろん、実際の調査で「最近あなたはテレビ離れしてますか?」と直接的に聞くことはないので、別の質問の結果を「テレビ離れ」と解釈しているのだ。アンケート調査の結果をレポート化するときに、このラベル貼りは付きものだ。そして、このラベル貼りがアンケート調査の結果を使うとき、見るときに気を付けなければいけないポイントのひとつになる。
 

photo credit : Capt Kodak via photopin cc

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NHK調査は「ある1日見なかった」という意味


ここで記事に登場した2つのアンケート調査を詳しく紹介しよう。
 
まず、NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」
これは全国で「住民基本台帳から層化無作為2段抽出」を行なって、回収率が7割弱(4,905人/7,200人=68.1%)という信じられないくらい真っ当な調査だ。調査会社に頼めば1億円はくだらないだろう。そのぶん調査の内容もハードで、「調査対象日(2日間)の午前0時から24時間の時刻別(15分きざみ)の生活行動と在宅状況」を調べている。回答者は、15分毎の行動を「睡眠」、「食事」、「身の回りの用事」、「仕事」、「子どもの世話」、「スポーツ」、「テレビ」など27項目(「その他」と「不明」は除く)にわけて記入しなければならない。回答者の構成に「生真面目な人が多い」という偏りがありそうだが、調査設計としては申し分がない。
 
こうやって回答してもらった調査票を集計して、「テレビ」行動がまったくなかった人がNHK放送文化研究所「国民生活時間調査」でいう「テレビを見ない人」となる。記事では、平日分のこの数値の増加傾向をノーテレビライフ広がりの根拠としている。
 
「1日にどのくらいテレビを見ていますか?」といった曖昧な質問と違い、1日の行動をまるまる調べた日記式調査なので、この「テレビを見ない人」はかなり信用できる。「まさにノーテレビライフ」にふさわしいと言いたいところだが、その日たまたま忙しかっただけ、見たい番組がなかっただけの可能性は否定できない。この調査でわかるのは「ある1日見なかった」ことだけなのだ。それが日々の習慣なのか、この日たまたまなのかは一切わからない。
 
この調査の結果はノーテレビライフの人を知るのにかなり役立つが、ノーテレビライフという言葉に習慣性のニュアンスがあるなら、これをそのままノーテレビライフの比率と解釈するのはおかしいだろう。
 


ニコニコ動画は1日平均で「全く見ていない」という回答


一方のニコニコ動画の調査結果についてはここで記事を、ここで動画を見ることができる。2009年10月20日19時30分(記事中の「10年」は間違い)にニコニコ動画を見ていた60,586人が対象で回答率はわからない。NHKの調査と違ってサンプリングをしておらず(「この指とまれ」方式)、回答者に偏りがあると推測される。まあ、調査というよりも「取りあえず、アンケートやってみました」という程度の代物だ。
 
もう一つ大きく違うのが質問の方法で、「あなたが平日、実質的にテレビを見ている時間は、1日平均してどのくらいですか?」と聞いて、「全く見ていない」、「30分未満」、「30分〜1時間」、・・・、「6時間以上」を選択肢にしている。自己申告で答える大体の数値だし、視聴時間にバラつきがある人は「平均」がうまくできない。ニコニコ動画のアンケートは時間も限られるので、かなりいい加減な答えになる。
 
とは言え、選択肢「全く見ていない」には一定の正確さがあるだろう。「全く」という強調があるので、かなりテレビを見ない人しかこの選択肢には答えないと想像されるのだ。それも、期間を区切らず「1日平均」という曖昧な聞き方をしているので、ある程度の習慣性も感じられる。調査の質についてはNHKの調査と比べものにはならないが、ノーテレビライフを捉えるには案外いいフィットした質問かも知れない。
 


かなりあやしい◯◯率


さて、どちらがノーテレビライフ層の値に近いかと言えば、それはわからない。
 
いずれにせよノーテレビライフ層を直接的に測るには明確な定義が必要で、その定義が社会的に共有されなければ意味はない。そして、そんなことは起こり得ない。
 
結果的に、各調査主体がぞれぞれの解釈でノーテレイビライフ層を測ることになる。これは、商品の満足度でも政治家の支持率でも同じ事だ。調査主体の解釈で◯◯率の類は決まってしまうのだ。
 
そして、ここに注意が必要になる。
故意か過失かは別にして、かなりあやしい解釈の◯◯率は多い。調査結果をを使うとき、見るときにはこの算出方法の部分を確認する必要があるのだ。一般の人がこれを常に気にするのは難しいかも知れないが、何か話がおかしいと思ったら確認してみるといいだろう。
 
データによる詭弁に騙されたくなかったら、この確認作業を惜しんではならない。

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