医療現場の実情を知りたいなら・・・


この記事の所要時間: 350秒 〜 450秒程度(2150文字)


日本外科学会が、会員の勤務実態を調べるためにアンケート調査を実施した。
質の低下が避けられない当直明け手術の危険性を指摘する結果となっている。
 

外科医の当直明け手術 20%が「質低下」|NHKニュース
外科医の4人に3人が病院に泊まり込む当直明けの日に手術に参加し、このうちのおよそ20%の医師が手術の質の低下を感じていることが日本外科学会の調査で分かりました。

日本外科学会は、会員の勤務の実態を調べるため、去年10月から12月にかけて全国の外科医8300人余りにアンケート調査を行いました。
それによりますと、この1、2年間に病院に泊まり込む当直明けの日に手術に参加したことがあるか尋ねたところ、▽「いつもある」が36%、▽「しばしばある」が25%、▽「まれにある」が13%で合わせて74%が「ある」と回答しました。

また、手術への影響について尋ねたところ、「出血が増えたり、時間が長くなったりするなど、手術の質が低下することが多い」と答えた外科医が19%に上りました。

さらに「疲労から医療事故を起こしたり、一歩間違うと医療事故につながるおそれを感じたりした経験がある」と答えた外科医が4%いました。

改善策としては70%以上の外科医が「当直明けは休みにするルールをつくるべきだ」と回答しました。

調査を行った日本外科学会の理事で九州大学病院の富永隆治教授は「当直明けの手術をやめると外科医不足のため手術ができなくなるのが実態だ。外科は負担の重さやリスクの高さから新たななり手が減る悪循環に陥っていて、労働環境を改善するなどの対策を考える必要がある」と話しています。〔略〕

 
長距離トラックや高速バスの運転手の睡眠不足による危険は問題になるのに、なぜかあまり注目されない医療現場での過剰勤務や睡眠不足。この問題を再認識させる有意義なアンケート調査と言えるだろう。
 
しかしその一方で、このような調査で医療現場の実情がわかるのかという疑問もある。
アンケートで質問した場合、医療ミスを疑われたくないという保身、医師自身の自分の能力に対する過信などが邪魔をするのだ。実際に現場で起きているよりも、危険が小さく認識される可能性が高いように思う。
 

photo credit : bitzcelt via photopin cc

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診療中や手術中、ハッとしたことはありますか?


アンケート調査は、質問文のちょっとした言葉遣いの違いで結果が変わってしまう。
 
この調査では、「疲労から医療事故を起こしたり、一歩間違うと医療事故につながるおそれを感じたりした経験がある」と答えた人が当直明け手術参加者の4%という結果になっているが、少し聞き方が深刻過ぎるだろう。これでは、回答する医師が身構えてしまう。例えば、「当直明けの疲労により、診療中や手術中、ハッとしたことはありますか?」とすれば、もっと反応が多くなる可能性が高い。また、「当直明けの疲労により、医療事故を起こしたり、一歩間違うと医療事故につながったりするような現場を見たことがありますか?」のように他人事として聞けば、まったく違った反応が出るだろう。
 
どの聞き方が正しいという訳ではない。
それでも、質問文を作る際には、自分が知りたいことと回答者の気持ちを充分に考えて、注意深く言葉を選ぶことが求められる。
 


本気でやるなら事実に基づくデータ分析


この問題に本気で取り組むのなら、医師の認識をいくら調査してもはじまらない。ありのままの事実を知りたいなら、もっとハードなデータを取り扱う必要がある。
 
例えば、手術後の5年生存率などだ。
当直明けの医師が執刀していた手術とそうでない手術で、生存率に有意差があるのなら、医療事故や医療ミスという程のレベルでなくても、何らかの影響はあるのだろう。逆に、そこに差異がなかったのなら、質の低下は気のせいかも知れない。
 
人の認識によるデータよりも、実際の現象に基づくデータを分析した方が、真実に近付くことができるのは当然だ。
 


少しでも真実に近いデータに迫れ!


では、なぜそこまでしないのか。
もちろん、その心理は人によって違うだろうが、突き詰めてしまったデータは都合の悪いことも多く、あまり好まれないからだろう。データ分析をやり過ぎると、「何も、そこまでしなくても」ということに成り兼ねない。
 
しかし、データを元に何かを伝えたいなら、少しでも真実に近いデータに迫る必要がある。間違っても、自分たちの立場に有利なデータをつくり出そうとしてはいけない。卑しいことをすれば、いつか必ず誰かに後ろ指を指されることになるのだ。
 
調査する側の立場をできる限り切り離して、少しでも真実に迫るアプローチを取ることが、結果的に強いメッセージを生む。無駄な小細工をすることなく、真摯な姿勢で現実をデータ化することが大切なのだ。

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