8Kテレビの妄想 潜在需要は言ったもん勝ち!?


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3Dテレビと4Kテレビに呆れていたのも束の間。今度は8Kテレビが開発されるらしい。
 

“8K” 7年後の本放送を目指す|NHKニュース
放送サービスの高度化を議論する総務省の検討会は、今のハイビジョンより画質が鮮明なテレビ放送の実施に向けた工程表をまとめ、NHKが中心となって開発した8K=スーパーハイビジョンは、7年後の2020年の本放送を目指すことになりました。

検討会には、放送局や電機メーカーの幹部らが参加し、今のハイビジョンより画質が鮮明な4Kと8Kのテレビ放送を行う推進組織が今月設立されたことを踏まえ、放送の実施に向けた工程表をまとめました。
工程表では、今のハイビジョンの4倍の画素数を持つ4Kの試験放送を、ブラジルでサッカーのワールドカップが開かれる来年、世界に先駆けて衛星放送で開始することを目指すとしています。
そして、NHKが中心となって開発した画素数が16倍の8K=スーパーハイビジョンは、リオ・オリンピックが開かれる2016年に試験放送を開始したうえで、東京オリンピックの実現を念頭に、2020年の本放送を目指すとしています。
また、検討会では、放送とインターネットを高度に連携させたスマートテレビについて、4K・8Kの放送と一体的に実用化することが望ましいとして、NHKが開発を進めるハイブリッドキャストなどの技術規格を早急に検討する方針をまとめました。
検討会に出席した柴山総務副大臣は、「今回の成果は、世界のマーケットを先導していくという皆さんの意欲の表れであり、政府の情報通信技術戦略にもきちんと反映させたい」と述べました。

 
悪い冗談のようだが、どうやら本気だ。
以前、4Kテレビの絶望 なぜ同じ失敗を繰り返す?でも書いた通り、画質が良くなることで満足が増すコンテンツは限られている。放送されるテレビ番組の内容自体が変わらないのなら、いくら画質が良くなってもテレビはおもしろくならない。8Kテレビは明らかな過剰品質であり、「便所の100ワット」と言われるのが関の山だろう。無駄の象徴という訳だ。
 
さて、先の記事では企業内の人間心理に着目して、このような過剰品質による失敗が繰り返される理由を説明した。①ハード面の品質向上はサービス面での進歩よりも簡単に見え、②数値を使って社内を説得しやすく、③せっかく開発できた技術を商品化しないと「もったいない」と考えるため、過剰品質の商品が発売されやすいという見立てだ。やや悲観的過ぎるかも知れないが、組織の意思決定はそんなに合理的なものではない。人間心理の機微が影響して、おかしな方向に進んでしまうことは多い。
 
一方で、これら暴走をしてしまう企業は、データを活用した検証を行なわないのかという疑問もあるだろう。もちろん、アンケート調査等を行なった上で見込みがあると判断しているのだろうが、そのやり方に問題がある。今回は、これについて解説しよう。
 

photo credit : Artiii via photopin cc

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どんな商品でも潜在需要は存在する


ある新商品の需要についてアンケート調査するとしよう。
対象は広く一般消費者。ここまでは何の問題もない。
 
さて、新商品を「欲しい」か質問すると、どうなるだろうか。
ほぼすべての商品で一定量の「欲しい」人を確認することができるだろう。別に、その新商品が優れているわけではない。質問の仕方によって「欲しい」人の量は増減するが、余程とんでもない商品でない限り、欲しがる人はいるものなのだ。高品質テレビなら、AV機器好きの人などが「欲しい」と答えることは容易に想像できる。
 
このような調査結果をつくり、「欲しい」人を潜在需要と言い換えれば、その商品の開発を後押しする材料となる。実際の商品が存在せず、価格も提示していない状態での「欲しい」という反応を、需要(購買力を伴なう必要アリ)とするのは無理があるが、この何となく「欲しい」人を潜在需要としてしまうパターンは多い。
 
その結果、たとえ5%でも、10%でも、潜在需要があることになる。どんな商品でも、「欲しい」かどうかを尋ねれば、一定の潜在需要はつくれるのだから言ったもん勝ちだ。
 
そして、潜在需要があることを理由に社内を説得することがまかり通っている。更に言えば、「潜在需要層は商品の普及により徐々に拡大する」という仮定を持ち込むことで、潜在需要を増幅させてみせるテクニックも使われる。
 
冷静に考えれば、需要はあくまで意識上の問題であり実際に買うかどうかは別の話だ。また、潜在需要層が拡大するかどうかは商品の特性による影響が大きく、すべての商品で成り立つとは考えにくい。しかし、このあたりの情報をうまくストーリー仕立てにすれば、社内を説得することは可能だろう。
 


「正しい部外者」の視点をつくろう!


一般に、アンケート調査は仮説を検証するために行なわれる。
しかし、仮説が客観的に検証されることは少ない。当たり前だが、仮説の発案者は仮説を肯定したくて仕方ないのだ。故意にせよ過失にせよ、仮説が肯定されやすいような調査が設計される。また、調査結果の解釈も恣意的になりがちだ。
 
調査結果のレポートを見て最終的に意思決定する立場の人間が、このことをきちんと理解して採用するかどうかを判断できればいいが、多くの場合それは難しい。優秀な部下がお膳立てしたデータには、頷くしかないのが実情だろう。このような過程を経て、8Kテレビのような過剰品質の商品が開発されることになる。
 
では、どうすればいいか。
調査するときにが、仮説を肯定したい欲求を抑制できればいいのだが、これはなかなか難しい。仮説をつくった人間と調査をする人間が同じである限り、この人間心理を排除することは不可能だろう。
 
必要なのは「正しい部外者」の視点だ。
新商品開発の渦中にいない人が、客観的に調査を行なうべきなのだ。この構図をつくれない限り、アンケート調査は「お手盛り」の域を出ない。
 
アンケート調査の実情を見れば、このような客観的な調査は少ない。「まず結論ありき」のような調査がほとんどだ。それが会議を通過させるテクニックであったり、社内システムの通過儀礼であったりするのかも知れないが、これを続けていては不幸な失敗を繰り返すだけだ。
 
言い換えれば、「正しい部外者」を置く構図をつくれれば、他社との差別化ができることになる。ぜひ、この構図づくりに取り組んでいただきたいものだ。

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