その原因は無能か? 悪意か?


この記事の所要時間: 330秒 〜 430秒程度(1988文字)


先日、日本経済新聞にドコモ、ツートップ戦略の誤算 iPhone当面見送りかという記事が掲載された。日経新聞、iPhone、NTTドコモの組み合わせと言えば、毎年のように登場する「ドコモからiPhoneが発売に!」の飛ばし記事が記憶に残るが、今回はこれまでとは一味違う「見送り」バージョンとなった。
 
このような飛ばし記事が事実と異なるとわかると、必ずと言っていいほど陰謀論が登場する。「日経が株価を操作するために、記事を捏造した」」といった類の話題だ。問題が発生したとき、その原因として何の根拠もなしに誰かの陰謀を疑う人は多い。みずから陰謀論を考えるまで至らなくても、他人の陰謀論にちゃっかり乗ったりする。SNSでのやりとりが盛んになってきてからは、陰謀論が勢いをつけて広がるパターンもしばしば見受けられる。
 
さて、陰謀論を見るたびに思い出すのが「ハンロンの剃刀」だ。一文であらわすなら、

Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.

無能で十分説明されることに悪意を見出すな

という警句になる(参考:ハンロンの剃刀|ウィキペディア日本語版)。上記の例で言えば、「日経新聞の能力不足」の可能性があるのなら、何も「記事を捏造した」と考える必要はないということだ。
 
この警句でも示される通り、問題の原因がわからないときは、根拠なく悪意を想定しないように注意しなければならない。なぜなら、悪意を疑っても損をするだけだからだ。
 

Photo credit : JD Hancock / Foter / CC BY Photo credit : JD Hancock / Foter / CC BY

 


なぜ悪意が原因と考えるのか


世の中には、ものごとすべてを理想的、規範的に考える人たちがいる。
そういう人たちは、何らかの問題が起きたときにその原因はわかって当然と思っているし、しっかりした組織は簡単に間違いを犯さないと考えている。こう考えてしまうと、中央官庁や大企業がミスをした場合、そこに悪意を想定しやすくなる。自分について考えてみても、この傾向は多少ある。無意識に完璧な組織や個人をイメージして、ミスの原因に無能以外の何かを求めてしまうことがあるのだ。組織や個人を現実的ではないほど完璧と考えて、その裏に悪意を見出してしまうパターンは多いのではないだろうか。
 
もうひとつ考えられるのが、人間の「損をしたくない」という感情だ。
行動経済学を持ち出すまでもなく、人に騙されるのが大嫌い。そのあまり、「無能を悪意と間違える」方が、「悪意を無能と間違える」よりもマシと思ってしまう。悪意と考えた方が心理的に気楽なので、ことの実態にかかわらずそういう判断をするという訳だ。
 
実際に悪意を見出す仕組みはよくわからないが、人間心理の歪みにより必要以上に悪意を想定しているのは、間違いないように思う。
 


悪意が原因と考えると・・・


原因を悪意と考えることの欠点は多い。
 
まず挙げられるのが、感情的になり判断が狂うこと。
先方のミスの原因を悪意と考えると怒りが起きるのは普通だろう。それが人間を興奮させ、判断に間違いが生じる。問題が発生したときは、トラブル解消のため冷静な判断が必要になるのに、悪意の推定がそれを狂わせるのだ。判断の精度低下は、更なる大きなトラブルにつながり兼ねない。
 
また、ミスに備える対策も、原因が悪意と無能では違ってくる。
相手が悪意を持っていると考えれば、無能と考えるよりもたくさんの対策を用意する必要が生じるだろう。「次はもっと強烈な悪意になるかも知れない」と考えれば、対策もおのずと大きくなる。ここも、悪意と考えることの欠点だ。
 
更に言えば、自分が相手のミスを悪意の結果と捉えれば、それが間接的に相手に伝わり、相手も自分のミスを悪意と捉える可能性がある。これでは互いの関係はこじれるばかりだ。悪意を推定してもいいことなどないのだ。
 


「無能で説明できないか」を自分に問う


事実にこだわる立場で言えば、実際に起きているのは「ミスをした」という結果のみだ。
そこに悪意があったかは本人にしか知り得ないし、場合によっては本人にさえわからないだろう。
 
ビジネスの場でものを考える場合、わからないをわからないと言えない場面がある。そのとき、無理に悪意を考えるのではなく、相手の無能を推定する方が効率的だ。根拠なく悪意を想定しても問題は解決せず、かえって混乱を招くばかりになる。
 
悪意を疑いそうになったら「無能で説明できないか」を自分に問うてみるといい。
もし、無能で説明できるなら、悪意と考えないことをオススメする。

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