「新しい横断歩道」をデザインするなら・・・


この記事の所要時間: 410秒 〜 510秒程度(2324文字)


街を歩けばどこかしこで渡ることになる横断歩道。このデザインが大きく変わるかも知れない。歩行者の安全を守るため、全国でいくつかの「新しい横断歩道」のテストが行なわれているのだ。
 

横断歩道

Photo credit : pinboke_planet / CC BY

 
例えば、滋賀県長浜市では「車道の路面より10cm高く設置された横断歩道」が試されている。横断歩道の前後には「勾配があることを知らせる三角形の路面表示」も施され、ここを通過する車両の平均速度が大幅に低下したらしい(参考:通学路守る秘策…横断歩道の高さ路面より10センチアップで「平均速度20キロ低下」 滋賀・長浜|MSN産経west)。
 
「浮き上がって見える横断歩道」をつくったのは静岡市。目の錯覚を利用することで立体的に見えるようにしたという。効果の確認はこれからだが、結果次第では「普及させていくことも検討」と積極的だ(「浮き上がる」横断歩道、思わず減速…静岡|読売新聞)。
 
車道より10cm高い横断歩道と浮き上がって見える横断歩道のどちらが優れているかはわからないし、別にもっと良い方法があるかも知れない。それでも、いろいろな仮説を案出してそれぞれを検証するアプローチは素晴らしい。担当者の勘や経験や度胸で実行する施策を選ぶよりも好ましいのは間違いないだろう。課題を解決したいのなら、KKD(勘、経験、度胸)より仮説検証。事実やデータに基づいて考えることが肝になる。ぜひ、全国でたくさんのテストをしてその知見を共有してもらいたいものだ。
 
さて、仮説を選ぶためにテストをするのは素晴らしいが、ただ闇雲にテストをしただけではその結果を信頼することができない。テストのやり方にもコツがあるのだ。では、実際にどのような点に注意してテストをすれば良いのだろうか。
 


評価する指標を事前に決める


まず大切なのは、各仮説を評価する指標を決めることだ。効果を確認するためには「新しい横断歩道」を設置する前後で何らかのデータを比較する必要がある。この比較に使用する指標を事前に決めておかないと、後から都合のいいデータだけを持ってきて「効果アリ」とすることが可能になってしまう。
 
そして、この指標の決定に深い考察が求められる。例えば、滋賀県の事例では平均速度を使って効果を確認したらしいが、本当に「平均」が重要なのだろうか。平均速度よりも、「ある速度以上で通過する車両の比率」の方が事故発生に影響している可能性はあるだろう。また、重要なのは事故が起こりやすい時間帯の車両速度と考えることもできるし、実際の事故発生数が減らなければ意味がないという議論も成立する。
 
滋賀県の事例にケチを付けるつもりはないが、効果の確認は事前にその「やり方」を決めておかないと、どうにでもなってしまう。いろいろあるデータの中から、効果が確認できるモノだけを選べば、効果があると主張できるからだ。だからこそ、効果の基準を事前に決めてからテストをする必要があるのだ。
 
また、誰が効果の測定を行なうかも考えなくてはならない。どこの組織でも、アイデアを企画した人間とその効果を測定する人間が同じだと、その採点は甘くなるからだ。少なくとも別な人間に測定させることが必要だろうし、できれば他部署や外部機関が評価する仕組みをつくった方が好ましい。
 
テストをするなら、その効果測定方法をしっかり設計しなくてはならないのだ。
 


費用対効果を考えよう!


もう一つ大切なのは費用対効果の発想だ。新しい横断歩道を設置することで平均時速が下がったり、交通事故の発生件数が減ったりするとしても、すべての横断歩道を置き換えるのでは予算が底をついてしまう。どこの横断歩道でも交通事故が発生する可能性があり、死亡事故が起きたときの人命の価値を無限大と考えれば、すべての横断歩道を改修することになるが、それは現実的ではない。
 
そこで、それぞれの方法に掛かる費用を明確にした上で、その効果と比較して検討することが求められる。例えば、過去5年間の事故発生件数、1日の横断者数、横断者中の子供や高齢者の比率、現時点での通過車両平均速度等から危険度指標のようなものをつくり、その効果を何らかの試算により金額化する。その上で費用と比較するのだ。
 
金額化のためには、かなり強引な仮定を置くことも必要になるだろう。しかしそれでも、何も基準なしに判断するよりは良い結果が期待できると考えられる。
 


既存のデザインを見直せば・・・


交通標識、駅のレイアウト、エレベーターの開閉ボタンなど、公共的な空間にはデザインに工夫の余地があるモノが多い。横断歩道だけでなく、これらのデザインが見直しされれば、その場所が安全になったり、人々のストレスが減ったり、少しは生産性が向上したりするだろう。大きな効果が直接的に期待できるわけではないが、塵も積もれば山となるだ。現状は、これら公共的な空間でのデザインが蔑ろにされ過ぎている。
 
会社の中でも同じこと。オフィスの机の配置や照明の強さ、社内で使用する帳票のレイアウトから各種掲示の方法まで、既存のデザインを見直すことが効率化を生む部分は多い。業務の効率を示す指標を定め、これらの再デザインをテストしてみたらいかがだろうか。しっかりした検証を行えば、かなりの効果が期待できる筈だ。

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