「和製ジョブズ」は成功しない!?


この記事の所要時間: 340秒 〜 440秒程度(2054文字)


今度は「和製ジョブズ」だそうだ。
これは総務省の「独創的な人向け特別枠(仮称)」事業のことで、「情報通信の分野で世界的に影響を与えるような奇抜なアイデアを持った人材」を支援する。政府のイノベーション創出のための施策は数多いものの、ここまでの踏み込みはかなり異色と言えよう。公式の通称が「変な人」というのだから、奮っている「和製ジョブズ」育成目指す…総務省が支援事業|読売新聞)。
 
さて、この施策。その成功/失敗はやってみなければわからないが、少々不安なところがある。「和製ジョブズ」という発想にはカテゴリー適用法の気配が感じられ、本当に成功するのかと疑ってしまうのだ。
 

スティーブ・ジョブズ

credit: Dunechaser via FindCC

 


「和製ジョブズだから成功する」は説明にあらず!


「なぜスズメは飛べるのか」という質問に対して「鳥だから」と答えたら、それは噛み合った回答といえるだろうか。確かにスズメは鳥の一種だし、ほとんどの鳥は飛べるので説明になっているようだが、これではスズメが飛べる理由はまったくわからない。スズメを「鳥」というカテゴリーに分類しても、「飛べる」理由の説明にはならないのだ。「翼を高速に動かすことで揚力が発生して、…」としてこそ、はじめてスズメが飛べる理由の説明になる。
 
一橋大学大学院の沼上幹教授は、この「鳥だから飛べる」のような考え方をカテゴリー適用法と名付けている。今回のテーマで言えば、「和製ジョブズ」というカテゴリーに分類できる人物が見付かったとしても、その人が「成功する」理由は説明できないということだ。「和製ジョブズだから成功する」では説明になっていない。真に成功する人を見付けたいのなら、ジョブズの成功をもっと入念に考察する必要がある(参考:『経営戦略の思考法』沼上幹/日本経済新聞出版社)。
 


要因列挙法、メカニズム解明法で考えよう!


沼上教授がカテゴリー適用法の代わりとしてすすめるのが、要因列挙法、そしてメカニズム解明法だ(要因列挙法等について詳しく知りたい人はメカニズム解明法で「売れる仕組み」を考えたいを参照のこと)。
 
要因列挙法はその名の通り、理由として考えられる要因を書き出す方法。スズメが飛べる理由として、「翼を早く動かすことができる」、「空気抵抗の少ない流線型の体をしている」、「体重が軽い」などと挙げていくことになる。
 
ジョブズの例で言えば、

 ・天才的な技術者(スティーブ・ウォズニアック)と出会った。
 ・人が欲しがる商品を考えるマーケティングの才能があった。
 ・カリスマ性を持っていた。

などだろうか。要因を挙げていけばキリがないし、どの要因を重視するかについては異論もあるだろう。しかし、これらの要因を突き詰めていけば、「ジョブズだから」で済ませるよりも成功に近付けることは間違いない。
 
ただし、成功要因を集めればビジネスがうまくいくかと言えば、そんな簡単なものではない。それらの要因の関係、消費者を含めた関係者の動き、時間の流れなどを分析し、その背景にある仕組みを読み解かなければ成功は難しい。更なる深みを目指すこの考え方がメカニズム解明法となる。この方法はなかなかの難物なのでここで例示はしないが、それぞれの要因が「独立」でないのは確か。だからこそ、そのメカニズムを考えることが必要になるのだ。
 


真の成功を創出するために


実は、本事業についての総務省の資料(独創的な人向け特別枠(仮称)事業概要)を見ると、「和製ジョブズ」がカテゴリー適用法でないことがわかる(資料にはジョブズの言葉が引用されているが、そもそも「和製ジョブズ」という表現はない)。「奇想天外」、「挑戦する」など成功要因と考えているだろうことがいくつも示されているし、メカニズムらしきものも提示されている。これまでの成功のメカニズムは解明されていないが、今後「変な人」が成功するための仕組みは用意されているのだ。
 
ただし、「和製ジョブズ」、「変な人」などのラベルが前面に出過ぎることで、いつのまにかカテゴリー適用法が出張ってくる心配は取り除けない。公募に応じる人、その採択をする人がカテゴリー適用法を使ってしまえば、ただの「変な人」の集まりに成り兼ねない。メカニズムを伝えるのは難しく、カテゴリーを伝えるのは簡単。このため、余程慎重に事を運ばない限り、カテゴリー適用法を使う人が出てくるのは避けられない。
 
この事業には「価値ある「失敗」を奨励」するなど、ビジネスにおいて非常に現実的で素晴らしい特徴があるように思っている。カテゴリー適用法に陥らず常にメカニズムを考えることで、ぜひ真の成功を創り出して欲しいものだ。

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