「思考のサンクコスト」に囚われるな!


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今年も将棋電王戦が開催された。FINALと銘打ち、今回で一区切りとなる人間対コンピュータの真剣勝負は、人間が3勝2敗で初の勝ち越し。もろもろ問題点が見付かったシリーズでもあったが、テレビや新聞で取り上げられるなど、かなりの注目を集めたようだ。
 
さて、ニコニコニュースに掲載された先崎学九段による電王戦FINAL第1局観戦記に目を引く箇所があった。

イヤな予感というのには意味がある。▲6五竜とノータイムで取れるところで▲4四歩以下の手を読むと、読めば読むほどそう指したくなってしまうのである。なぜならば、考えた末に▲6五竜では、▲4四歩を読んだ膨大な時間が無駄になってしまうから。ここに人間の心理のアヤがある。だから、ベテランの棋士ならば、歩では危いと感じたらさっと銀を取る。そして相手の次の手を見るのである。勝負に勝つコツがここにはあって、プロ将棋はそういったところも力のうちなのである。

思考時間と意思決定の関係についての考察で、すぐに指せる手(▲6五竜)に時間を使うと、その間に検討した別の手(▲4四歩)が「指したくなってしまう」という指摘。思考に使った膨大な時間が「無駄になってしまう」と思い、判断を誤り易いというのだ。
 
この使った時間が無駄になってしまうという考えは、ビジネスシーンを含めさまざまな場面に顔を出す。知らず知らずのうちに人間の判断を狂わせる、かなり厄介な代物だ。この「思考のサンクコスト」とも言える現象を強く意識することで、避け得る不幸から少しでも逃れて欲しいと考えている。
 

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photo credit: e1 via photopin (license)

 


「もったいない」が害になる!

サンクコストは、日本語で言えば「埋没費用」となり、既に支払ってしまったコストのこと。それまでに投資した金額や時間に引きずられて、意思決定を誤ってしまう場合に使われることが多い。厳密には「サンクコスト効果」と言うべきなのだろうが、マイナスの効果の部分を含めて「サンクコスト」と言うことが多いように思う。「もったいない」という思いが、合理的な意思決定を阻害してしまう現象のことだ。
 
例えば、チケットを買って映画を見始めたらつまらなかった。そんなとき、あなたはどうするだろうか。チケット代を支払ったし、映画館に来るまで時間も掛かったしと考えて、そのまま見続ける人がほとんどだろう。しかし、既に支払った費用や掛けた時間は。映画を見続けようと、途中で見るのを止めようと戻ってこない。つまりは、サンクコストだ。それだったら、少しでも時間を有効に使うためには、すぐさま映画館を出ることが合理的な判断となる。「もったいない」などと思っている場合ではないのだ。
 
もちろん、ビジネスでも同じこと。これまで大きな投資をしてきた事業には、将来の成功が見込めなくても、更なる投資を続けてしまうもの。ビジネスマンならサンクコストぐらい知ってそうなものだが、それでもこの落とし穴に引っ掛かる。正に「人間の心理のアヤ」と言えよう。何かともてはやされる「もったいない」という考え方も、時と場合によっては害になる訳だ。
 


「評価」を切り出す!

サンクコストでいう「コスト」は意味が広く、何もお金のことだけではない。上の例でも書いた通り、掛けた時間なども含まれる。しかし、言葉からはお金のことをイメージし易いようで、時間のサンクコストはお金のサンクコストに較べ見逃され易いように思う。
 
そして、時間のサンクコストの中でも、思考に掛けた時間は更によく見逃される。行為の具体性が低いためだろう。移動や作業に掛けた時間ならまだはっきりするが、思考に掛けた時間は見え難い。
 
しかし、そこに「時間を使った」という意識はあるので、たくさん時間を掛けたアイデアなどはどうしても捨てられなくなる。アイデアに親心が湧くとでも言おうか。そのアイデアの価値について、冷静な判断ができなくなってしまうのだ。
 
冒頭で挙げた将棋の例だとわかり易いが、実はビジネスでも同じこと。時間をかけてつくったアイデアは、どうしても贔屓してしまう。薄々失敗しそうだと思っていても、そのアイデアを後押しするようなデータばかり集めたりするのだ。それが人間といえばそれまでだが、不幸を避けるためにはこれにはまってはいけない。思考に使った時間はサンクコストと割り切り、誤った判断を避ける必要があるのだ。
 
「思考のサンクコスト」に引っ掛からないための特効薬はないが、思考をステップにわけて考えることが役に立つ。アイデア出しのステップと評価のステップをわけて考えて、「評価」を切り出すのだ。もちろん、評価者が自分自身の場合には限界があるが、一度冷静になって再度評価することで一定の効果は期待できる。評価するときに「思考のサンクコスト」を意識すれば、多少は精度も上がるだろう。よりよい意思決定を行なうためにも、「思考のサンクコスト」を意識することを、ぜひオススメしたい。

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