出版物販売額、『火花』で書籍健闘は本当か?


この記事の所要時間: 220秒 〜 320秒程度(1458文字)


出版物の不振が続いている。2016年は「国内で出版された書籍と雑誌の販売額が、前年より約5%減の1兆5200億円程度にとどまり、過去最大の落ち込みとなる見通し」とのこと。この販売額は32年ぶりの低水準であり、ピーク時の6割以下というのだから、その現状はかなり厳しいと言えよう(参考:今年の出版物販売額、落ち込み最大に240万部超 「火花」で書籍健闘も、雑誌の不振深刻|産経ニュース)。
 
この記事で気になったのが、以下の部分だ。

書籍の推定販売額は前年比約1・9%減の7400億円前後となる見通し。累計240万部を超えた「火花」の大ヒットもあり、減少率は前年(4%減)より縮小した。

書籍が健闘した = 書籍販売額の減少率が前年に比べて小さかったのは『火花』の効果と言っているように読めるが、果たして1冊のベストセラーにそんな大きな影響力があるだろうか。結論から言ってしまえば、そんなことがあるはずない。
 

書籍

credit: geralt via pixabay

 


『火花』の販売額が30億円でも、微々たるもの!?


さて、具体的に計算してみよう。
『火花』の定価は1,200円(税抜き)。「累計240万部を超えた」とあるので多めに見積もって250万部としても、その販売額は

 1,200円 × 240万部 = 30億円

で、30億円どまり。もちろん30億円は大きな金額だが、書籍の推定販売額7,400億円の中では微々たるものだ。『火花』の販売額は、書籍全体の販売額の約0.4%に過ぎない。
 
一方、2015年と前年2014年の減少率の差は4.0% ― 1.9%で2.1%となる。これを金額に換算すると、2014年の書籍販売額7544億円を元にして、

 7544億円 × 2.1% ≒ 158億円

となる。
 
つまり、『火花』の販売額30億円では、減少幅縮小158億円の5分の1も説明できていないのだ。『火花』が書籍販売額に貢献したのは間違いないとしても、『火花』の効果だけで減少率の縮小が起きたと考えるのは無理がある。上で紹介した記事では、「累計240万部を超えた「火花」の大ヒットもあり」となっており、よく読めば「も」が入ることで原因のひとつに過ぎないことを表しているのだろうが、そこを読み取れというのは難しいように思う。
 


「もっともらしい原因」に要注意!


人は、何らかの変化が起きたとき、その原因を知りたがるものだ。ところが、実際の世の中には、因果がはっきりしない変化も多い。そこに、今回の『火花』効果説のような「もっともらしい原因」が登場する。原因がわかることで気持ちはいいが、原因の単純化は誤解の元となる。現状を誤解すれば、次に取るべき施策を間違い兼ねない。
 
ビジネスの「実際」は、極めて複雑怪奇なものだ。それが、新聞、雑誌、インターネット等の記事になると、出来過ぎたストーリーになる。そこで語られる「もっともらしい原因」は一面の真実かも知れないが、実態を表していないことも多い。物語として楽しむにはいいとしても、真に受けて施策に活かすには危険が大き過ぎるのだ。経験から言えば、ビジネスのウェルメイドな物語は絵空事。「もっともらしい原因」には、くれぐれも注意したいものだ。

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