宅配ボックスと印鑑とイノベーション


この記事の所要時間: 330秒 〜 430秒程度(1979文字)


今の世の中、宅配便がなくては生きていけないという人も多いだろう。宅配便の取り扱い個数は2014年の統計で36億1379万個(参考:平成26年度 宅配便取扱実績について|国土交通省)。1日あたり1000万個弱の荷物が配達されており、国民1人あたりにすれば1年で約30個という計算になる。実際には企業間の荷物も多いとしても、すごい個数であることに変わりはない。民間企業が担っているとはいえ、全国に広がる宅配網は日本の社会を支えるインフラのようなもの。この効率を上げよという取り組みが、官民協力のもとに進められている。
 
宅配便効率化の議論では、再配達率を下げることがひとつのポイントになっている。ひとつの荷物を届けるのに、2度も3度も訪問するより1度で済んだ方が効率がいいのは間違いない。「再配達なし」の場合はポイントを貰えるなど、いろいろなアイデアが展開、実験されているようだ。
 
再配達を減らすために役立つと期待されているが宅配ボックスだ。これを導入すれば、受取人が留守でも宅配ボックスに荷物を入れれば配達完了となるため、不在が理由の再配達がなくなる。最近のマンション等では、標準設備となりつつあるようだ。
 
さて、パナソニックから新しい戸建住宅用の宅配ボックスが登場した(参考:パナソニック、捺印機能まで完備した戸建住宅用の宅配ボックス|家電Watch)。この商品の目玉(?)は、シャチハタを使った捺印機能だという。必要は発明の母なのかも知れないが、この機能を何とも馬鹿馬鹿しく思うのは自分だけではないだろう。
 

宅配便

credit: Skitterphoto via pixabay

 


手段である印鑑にこだわる必要はない


この宅配ボックスでは、宅配業者がボックスに荷物を入れて扉を閉めると、1回だけ捺印できるようになっているという。これで宅配便の伝票に受取の印鑑が押されるため、受け渡しが完了したことになるのだろう。ボックスの中にシャチハタをそのまま入れておくのと違って、偽装の捺印ができない。「荷物が2つ以上のときはどうするの」という軽いツッコミはあるものの、現状を鑑みればよく考えた工夫のように思う。
 
ただし、この機能を少し引いた視点で見ると、かなり意味がわからない。宅配便の伝票への捺印は受取の確認を示すための手段。受取人と直接顔を合わせて、捺印/サインしてもらうということに意味があるはずだ。受取人がその場にいないのなら、手段である印鑑にこだわる必要はなく、受取のレシートでも出せばいいだけ。いずれにせよ、確認できるのは宅配ボックスの扉を開けて閉めたところまでで、本当に荷物を置いたか、その荷物の宛先が間違っていないかまでは確認できないだろう。宅配便システムの現状を所与としたとき、印鑑を使うこの方法がもっとも現実的な解決策なのだろうが、目的と手段が逆転しているようで馬鹿馬鹿しく見えてしまう。
 


印鑑による確認はビジネスのタネ?


この宅配ボックスにかぎらず、印鑑を押すことにより何かを確認したことになる仕組みは、日本に残る極めて不思議なシステムだ。シャチハタや三文判はいくらでも同じものがあるし、比較的まともな印鑑でも偽造できないとは思えない。印鑑による確認は形骸化が進んでおり、印影を残すことで何が証明できるのかには大きな疑問を感じてしまう。
 
多くの人が疑問を感じるシステムであっても、それを積極的に変える人がいない限り、そのシステムは生き続ける。現状を維持する慣性の力は強いので、ちょっとやそっとのことでは世の中は変わらない。印鑑に対する不満や疑問は、微々たるものがどこかしこにあるだけ。それが集中して大きな意志とならないから、現状を変えるに至らないのだろう。
 
この状態は、見方を変えれば、印鑑による確認に商機があるということでもある。印鑑による確認の持つ矛盾をスマートに解決できれば、ビジネスになる可能性はあるだろう。もちろん、誰もが気づくようなことなので、これまで数々の人が挑戦してものにならなかったのだろうからハードルは高いが、ビジネスのタネであることに変わりはない。
 
世の中にあるおかしな状態を解決すれば喜ばれる。それをうまく仕組みにすれば、それは立派なビジネスだ。世の中を大きく変えるイノベーションになるようなものは少ないとしても、小さなイノベーション(?)のきっかけは人の不満や疑問から見つけられることも多い。このような視点でニュースを見れば、おもしろいビジネスのタネはまだまだたくさんあるように思っている。

  1. コメントはまだありません。

  1. トラックバックはまだありません。

This blog is kept spam free by WP-SpamFree.