説明が必要な蛇口とアフォーダンス


この記事の所要時間: 240秒 〜 340秒程度(1624文字)


とあるお店のトイレでのこと。手洗い場にあった貼り紙に驚いた。

「 蛇口はまわしてください 」

そんなの当たり前だと思うが、問題の蛇口を見て納得。蛇口から細い棒が斜めに伸びており、下に押せば水が出てきそうなデザインなのだ。これなら、蛇口に説明書きが必要なのも理解できる。

説明が必要な蛇口

 
このわざわざ説明が必要な蛇口は、デザインの間抜けさを物語っている。そして、ここから学ぶことは自明だろう。デザインが発する無言のメッセージに、注意する必要があるということだ。ここでのキーワードは「アフォーダンス」となる。
 

蛇口

credit: Hans via pixabay

 


アフォーダンスとは「モノから伝わるメッセージ」


「押す」、「引く」などの文字がなくても、思わず押したくなるドア、引きたくなるドアがある。ドアに平らな板状のものがついていればそこを押したくなるし、取っ手のような棒状のものがついていればそれを引きたくなるのは誰もが同じ。そして、これこそが『誰のためのデザイン?』のドナルド・A・ノーマンがいう「アフォーダンス」だ。一言で説明するなら、「モノから伝わるメッセージ」とでもなろうか。アフォーダンスの厳密な定義はややこしので脇に置くが、何となくはわかってもらえるだろう。
 
蛇口で言えば、昔ながらのつまみやハンドルは丸い形状で「ここを回せ」と伝えてくる。実際には、子供の頃から蛇口は回すものだということを知っているのもあるが、あの形状は思わず回したくなるだろう。一方、数十年前から増えだした横幅のあるレバーがついたタイプはいかにも「ここを押せ」という風にデザインされている。これが「蛇口から伝わるメッセージ」だ。
 
冒頭に挙げた蛇口は、細い棒だけなので「ここを回せ」というメッセージが弱く、間抜けな説明書きが必要になってしまったのだろう。蛇口を格好良く見せようというデザイナーのひとりよがりで、使いにくいものができてしまった可能性が高い。
 


ビジネスにもアフォーダンスを!


ここまでの話を読んでデザイナーではない自分には関係ないと思うかも知れないが、「モノから伝わるメッセージ」を意識することはビジネスの場でも役に立つ。たとえば、お店の出入り口。入りやすい店、入りにくい店があるのも、ある種のアフォーダンスの影響と考えられる。いかにも「入ってきてください」という入り口とそうではない入り口があるのは間違いないだろう。入り口の横幅の広さ、店頭に置いた看板のちょっとした向きの違い、呼び込みの店員の立ち位置(モノじゃないけど)などによって、「入ってきてください」というアフォーダンスは強くも弱くもなるのだ。
 
書類でも同じことが言える。重要な情報の記入欄が小さくて、そうでない情報の記入欄が目立っていると、書き間違いが起きやすくなるのだ。きっと、大きな記入欄は、「ここに重要な情報を書け」と訴えてくる感じがするのだろう。記入欄のフォーマットが悪い書類は、記入する側にとっても、その情報を読み取る側にとっても不幸を招くことになり兼ねない。書類の使い勝手を良くするためにも、アフォーダンスの発想は生きてくる。
 
こんなものまでアフォーダンスと言っては拡大解釈が過ぎるのかもしれないが、何かについて同じ間違いをする人が多いときは「モノから伝わるメッセージ」を考えてみるといい。注意書きの貼り紙をする前に、デザインを疑ってみることが必要だ。思わぬデザインの落とし穴が、人を間違った方向に導いている可能性は案外高い。多くの人が間違った行動をするときには、有名なドアの事例や今回の蛇口の事例を頭に思い浮かべて、アフォーダンスについて考えてみるといいだろう。

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