iPhone10周年と2つのイノベーション


この記事の所要時間: 340秒 〜 440秒程度(2083文字)


2007年1月9日、Macworld Expo 2007にて初代iPhoneが発表された。iPhoneのコンセプトが世に出てから、昨日で10周年を迎えたわけだ。日本時間で考えれば、今日1月10日で10周年ということになる。社名をApple Computer, Inc.からApple Inc.に改めたのもこの日のこと。このところのAppleの快進撃は、社名からComputerをはずしたこの日からはじまったと言ってもいいだろう。
 
初代iPhoneでまず思い出されるのが、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーション。ジョブズが繰り出すシンプルなメッセージと、観衆の異様なまでの盛り上がり。10年経った今でも、充分に見返す価値があるプレゼンだ。
 

 


3つ目の「全てを変えてしまう新製品」


さて、件のジョブズのプレゼンはYouTubeに日本語字幕付きで上がっている。公式の動画ではないので「検索してください」がインターネットの礼儀的には正しいのだろうが、8年以上も消されていない動画なのでここは引用してしまおう。約8分ある動画だが、退屈はしないはずだ。iPhone10周年を記念して(?)ぜひご覧いただきたい。途中で終わっているので、続きを見たい方はそれこそ「検索してください」だ。

 
このプレゼンで注目したいのは、iPhoneをAppleが世に出す3つ目の「全てを変えてしまう新製品」として紹介しているところだ。1つ目がPC業界全体を変えてしまった1984年のMacintosh。2つ目が音楽の聴き方だけでなく音楽業界全体をも変えた2001年の初代iPod。そして、3つ目がこの日の主役であるiPhone。この時点では希望を含んだ仮説に過ぎないが、3つ目の「革命的な新製品」と言い切っている。
 
ここからわかるのは、ジョブズが「革命的な新製品」を極めて限定的に捉えているということ。プレゼンの中ではRevolutionという単語を使っているが、要はイノベーションのことだ。そうなると、あの大ブームを起こしたiMacでさえ、Appleのイノベーションには入っていないことになる。もちろん、プレゼンテーションの見せ方として3つに絞りたかったというのもあるだろうが、イノベーションの条件が「全てを変えてしまう新製品」なら数が少なくなるのも致し方ない。
 
そして、この定義なら、iPadもApple Watchもイノベーションとはならないはず。そうなると、Appleは今日で丸10年イノベーションを起こせていないことになる。これが、最近よく聞く「Appleはジョブズがいなくなってからイノベーションを起こせなくなった」という主張の根拠なのだろうが、よく考えてみて欲しい。
 
Appleが目指しているのはMachintosh(1984年)、iPod(2001年)、iPhone(2007年)クラスのイノベーション=「全てを変えてしまう新製品」だ。これまでの間隔も、1つ目から2つ目が17年、2つ目から3つ目が6年と、結構長い。このクラスの真のイノベーションなら、10年くらい出なくても仕方がないように思う。逆に言えば、真のイノベーションというのはそのくらい貴重なものなのだ。
 


石を投げればイノベーションに当たる!?


一方、最近はどこかしこで年がら年中イノベーションが起きている。「石を投げればイノベーションに当たる」と言いたくなるほど、自称イノベーションが多い。今の日本では、世の中を変えられなくても、自社の業績を変えられるような製品はイノベーションだ。
 
ジョブズの言うイノベーションは、「馬車を何台つなげても、蒸気機関車にはならない」レベル。これに対して、車輪を大きくしたり、馬の頭数を増やしたり、馬の餌を改良したりするのもイノベーションというのが、今どきのイノベーションだ。後者のイノベーションなら、イノベーション不足のAppleでも、この10年で何千何百と起こしているだろう。
 


ジョブズのやり方は参考にならない!


車輪を大きくしたり、馬の頭数を増やしたりするようなイノベーションを、「そんなのイノベーションじゃない」と言ってもはじまらないが、2つのタイプのイノベーションの違いは重要だ。要するに、今どきのイノベーションを目指すなら、ジョブズのやり方は参考にならないということになる。
 
何かに同じラベルが貼られるとついつい混同しがちだが、別物は別物だ。2つのイノベーションがあることを強く意識することが、どちらのタイプのイノベーションを目指すにしても必要になる。イノベーションという言葉に飛びつくのではなく、その本質を見極めることが重要だ。

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