空調の設定温度は科学的根拠で決められる?


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今年もクールビズがはじまった。最近はクールビズに関係なくノーネクタイの人も多く、5月1日から「はじまった」という印象が弱くなるほど。それだけこのキャンペーンが成功しているということだろう。
 
今年のクールビス開始のニュースで目立ったのは、設定温度28度に科学的根拠がなかったという話題。その真相は定かではないが、「さもありなん」という感じだ。なぜ、「さもありなん」かといえば、空調の設定温度が科学的根拠で決められるという前提があやしいため。今回は、空調の設定温度が科学的根拠でも簡単に決められない理由を、データ活用の視点で説明してみる。
 

credit: matuska via pixabay

 


まずは目標設定から・・・


科学的根拠で設定温度を決めようとするとき、まず問題になるのが「何を目標にするか」だ。目標が決定すれば、その数値を最大化する方法も決まり得るが、目標自体は科学では決められない。
 
設定温度の目標は、単純に考えれば作業効率だろうか。オフィスの空調の設定温度が高すぎて、作業がはかどらなくなってしまっては本末転倒。設定温度を、例えば30度、28度、26度、24度にして、それぞれの作業効率を比較すれば、どの温度が最適か科学的に決まることになる。最も作業が進んだ温度を、設定温度にすればいいわけだ。
 
クールビズを環境問題の文脈で捉えるなら、費用対効果の発想で考えることも重要になるだろう。使用エネルギーを2割増やして、作業効率が1割しか向上しないなら、やらない方がマシと考えることもできる。インプット(使用エネルギー)とアウトプット(作業量)を比較すれば、より効率的なエネルギー使用を目指せるはずだ。
 
ここまで、作業効率が測定できるものとして話を進めてきたが、ホワイトカラーのオフィスでこれがどの程度測れるかは疑問もある。例えば、空調が不快なため仕事が雑になり、結果的に作業が早く終わったなどということも考えられるからだ。そう考えると、オフィスで働いている人の空調に対する満足度を基準にするのも良い案に思えてくる。快適と感じる環境の方が作業が効率的に進むと考えて、これを計測するわけだ。作業効率が測りにくい職場なら、働いている人の心理に目を向けるのもありだろう。
 
もちろん、目標となる数値は他にもたくさんあるだろうし、いくら例を挙げても「何を目標にするか」に科学的な正解は出ない。間違いないのは、この目標を誰かが決めて、多くの人に共感してもらうことで、はじめて目標が成立することだ。この目標設定がなされない限り、科学的根拠を持っていしても、最適な設定温度は決まらない。
 


設定温度か、実際の室温か


少し戻って、「何を測るか」も大切になる。上では、「設定温度」を使って目標の具体例を示したが、「実際の室温」が設定温度と一緒になるとは限らない。設定温度と実際の室温に一定の相関はあるだろうから、割り切って「設定温度」を使う方法もあるとは言え、「実際の室温」を使わないと根拠の説得力は弱まるように思う。
 
「実際の室温」を使うとなると、これはこれで難しい。まず、どこで測るか。空調の風があたるところは寒いだろうし、日差しのよくあたる窓際は暑いだろう。床から50cmの高さと1mの高さでは温度が違って当然だ。更に言えば、室温がずっと一定とは考えにくいので、どの時間の室温かという問題もある。1時間単位で計測するのと、1日の平均を使うのとで、検証の結果が違っても不思議はない。
 
細かすぎるように思うかも知れないが、「実際の室温」の測定方法がバラバラでは、どの温度が最適かはわからない。さまざまなオフィスがあることを考えると測定方法の統一には限界があるだろうが、何らかの測定基準は必要になると思われる。
 


最適な温度はひとつ?


最適な温度を決めるには、各オフィスの事情を考慮する必要もあるだろう。人が多いオフィスもあれば、少ないオフィスもある。従業員の男女の構成比も影響しそうだ。機械類がたくさんあったり、人の出入りが激しければ温度が上がりやすいだろう。外の温度が低い地域では強い冷房は好まれず、外が暑い地域は程よく冷えたオフィスが好まれるかも知れない。ここまで、オフィスを例に説明してきたが、これがお店などでは状況がまったく変わってくる。
 
28度という数値がひとり歩きしたせいで、最適な温度はひとつに決まると思いがちだが、そんなことはない。最適温度をひとつに決める単純化は、エネルギーを効率的に使うためには障害にしかならないように思う。「150平米のオフィスに10人の従業員が働いている場合」等のモデルケースをつくる方法もあるが、この前提を抜きに結果の設定温度だけ伝わるのがオチだろう。
 
要は、空調の設定温度もカスタマイズが必要ということ。無理にひとつの温度にこだわるより、いくつかの設問に答えることで最適な温度が決まるような仕組みのほうが、より適切な温度になるはずだ。
 


「科学的根拠」を疑おう!


「科学的根拠」なら、答えがひとつにきまるというのは間違いだ。「科学的根拠」を成立させるためには、誰かが目標や測定方法を決める必要があるし、それらが決定したとしても答えはひとつにはならない。各所の環境に合わせたカスタマイズが重要になる。
 
「科学的根拠」で決まるならそれに越したことはないが、現実の問題は「科学的根拠」だけでは決められないことがほとんど。実務では、「科学的根拠」を絶対的なものと見る科学信仰をなくし、科学で「本当に決められるのか」をみずから考えることが必要だ。「科学的根拠」を疑うことが、最適解への第一歩となるだろう。

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